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「シャー、緑の医師がセーブル王にヒソク様のことを告げれば、また面倒事を呼び込むのではないのですか」
シアンはわずらわしげに言った。
「あの王の尋常でない術師への執心はご存じでしょう。声で人を操る能力に気づかれた上、緑の王の兄だなどと知れれば、カーマイン様以上の執着を受けることは目に見えています」
青の王はシアンをふり向いた。
「私がどうにかする。おまえは心配するな」
はじめて会った時のように気軽に言い、視線を診療所の入口へと向けた。
ひたりとそこで止まる。
目の前に赤い服を着た一団が立ち止まった。
「ヒソク?」
ギルが驚いたように俺を見つめていたが、すぐに平静な顔をとり戻すと、青の王の前に立った。
「緑の王が、運び込まれたと聞きました。衰弱が激しいということですが、明日の会合には出てこられるのでしょうか。王位継承式の手はずはこちらで整えることになっていますが、延期させたほうがよろしいですか」
「明日はまず無理だ。緑の王の治療に関しては、黒の王に任せている。尋ねてみろ」
「それは、具合が良くないということでしょうか? 幼い王だと聞きましたが、もしかして命が危ないのですか」
そう言って表情を曇らせたが、青の王はそれに返事をせず、黙って道をあけた。
ギルは会釈でこたえたあと、行き過ぎようとそぶりをみせたが、遠慮がちにちらりと俺をふり返った。
「なぜ、ヒソクまでここにいるのですか」
「ヒソク様は術師として、シャーに付き添われているのです」
ギルの問いに、シアンがかわって答える。
「術師として? ヒソクがですか」
不思議そうに俺を見つめた。それからわずかに眉をひそめた。俺のほおにふれて、そっと自分のほうを向かせた。
「ヒソク、具合が悪いのか? 目が赤くなっている」
心配げなまなざしが降り注ぐ。魅入られるようにくちびるが動きかけたが、「赤の方」と、シアンのたしなめる声で、ギルは俺のほおから手を離した。
名残惜しそうに俺にほほえんで、青の王に向き直る。
「失礼いたしました。では明日、カテドラルでお会いしましょう」
「ああ」
青の王に一礼して、通りすぎる。俺はギルを見つめた。離れていく背中に、さびしさが胸をよぎった。
「待ってください」
普通の声とは違って響くようで、ギルは一瞬だけ、戸惑った表情を浮かべた。
俺は自分の指にふれた。
「これは、ギュールズ王にお返しします。俺には必要ないものです」
手を差し出すと、ギルはうながされるままに、俺の手の下にてのひらを差し出した。
ぽとりと、赤い石の指輪を落とした。ギルはゆっくりと顔を上げて、俺を見つめた。俺が好きになった瞳には、困惑がにじみ出ていた。
「さようなら」
もう二度と間違えたくなかった。
大切なひとを傷つけたくないのなら、はじめからそんな者など、つくらないほうがいい。ヒソクを傷つけてはじめて、俺はそれを知った。
抱きついてくちびるを求めると、青の王はそれに応じた。王の部屋は、灯された火の光で明るかった。
自分から誘うように脚をひらく。男の手がそれを割り広げて、付け根まであらわにされた。
服を脱がされる間、部屋のすみに控えた侍従の姿が頭をよぎった。けれど、すぐにどうでもよくなって、広い肩に頭をうずめた。
耳の後ろがドクドクと波打ち、昂った気持ちのせいでじわりと涙が浮かんだ。
「あおのおう」
声は頭の中で鳴り響くだけだった。抱いてほしいとくちにしたのは俺だった。『声』を使ったかどうかもわからなかったけれど、青の王は自嘲的な笑みを浮かべて、俺を見下ろした。
ひゅうひゅうとのどが音をたてる。
神経に近い皮ふをなめとられて、色の違う胸の飾りに歯をたてられたら痛みにふるえた。
くちの中で潰すように苛まれたら、知らない刺激に腰がずくりと重くなった。
幼いそこを舌で押しつぶされて、思わず短い髪をつかんでしまうと、ふりほどかれて寝台に押さえつけられた。仰向けになった体温が急に上がる。
「は、早くしてください」
焦れてひざを下腹部にこすりつけるように動かしたら、王はそれにうるさいと答えて首をつかんで強引に引き戻した。
込み上げてきたものが、苛立ちなのかみじめさなのかわからない。
「うあ、もう入れて」
キンとこめかみが痛んだ。慣らされていないそこに指があてがわれて、期待したものと違うことに気づいて涙がこぼれた。
間をあけずに抱かれているせいで、節の立った指はたやすくのみ込まれる。
内壁をえぐる指先の動きは苛立ったようで、強い痛みを感じて声をもらした。痛みを与えられるほうが気持ちが良かった。
「ひっ、あ、気持ちいい」
そうくちにすれば視界が淡くにごる。自分の声に犯されるような気がした。
ずくずくした刺激は身体の最奥にまで響いて、収縮した内臓が無意識のうちに痛みからの逃げ場を求めて腰をゆらめかした。
浅いところをさわってもらおうとして腰を引いたけれど、すぐに引き戻されて深く埋め込まれる。ままならず弄ばれる快感に身体中のうぶ毛がそばだつ。
優しさもなく広げられただけの行為なのに、指を引き抜かれた頃には性器はとろとろした液にまみれていた。だらしのない身体に目まいがする。
伸ばした指先がかたかたとふるえていたけれど、そっとほおをなでて金色のまつげにふれた。
王は表情を変えずに俺のすきにさせておいてから、息がかかるくらいに顔を近づけた。
「ヒソク、殺してほしいか」
ひそめられた言葉は、まるで俺の『声』のように激しく脳をゆさぶった。
は、と透明な息を吐いたら、涙があふれてきて止まらなくなる。掠めるようにまたくちびるを奪われて、「殺して」と小さくこたえた。
王は色の濃い視線で俺をのぞき込むと、ため息のような重い声で「バカが」と告げた。
大きく開かされた脚を片方だけ折り曲げられる。押し当てられただけでも達しそうになった。
人の肌がふれて尖端が自分に喰いこむのを、ほとんど飛んだ意識で受け止める。
指をのみ込んでいた狭いところは無理やりに押し広げられて、絶望的な痛みをともなった。
骨がこすれるきしんだ音まで頭に響く。
ヒソクをあんな目にあわせるつもりではなかった。
ただ守りたかった。
妹がどこかでしあわせだとわかればそれ以上に望んだりは、しなかったのに。
仰向けののどがしゃくりあげた。
「俺のせいで……俺のせいなのに」
「ヒソク、こっちを見ろ」
とがめるように名を呼ばれる。
俺はヒソクじゃないとくちの中で言い返す。妹のようにはうまく立ちまわれなかった。大切な人からしあわせを奪った愚かさに、俺は打ちのめされた。
中に入り込んだ硬い感触を、しぼりあげる。そうする時だけはひとりじゃないと感じられる。
ふいに涙ごと顔をぬぐわれて、ぱちぱちとまばたきを返した。
見つめ返した青い瞳は冷めきっていて、診療所から戻って以来、麻痺したところへひやりとした空気が流れ込む。
誘われるようにまた殺してくれと頼んでしまいそうだった。
瞳をぬぐわれるはしからさらに新しい涙が浮かんできて、流れた涙に汗が入り混じる。
ヒソクに星見の力がなければ、未来は変わったのだろうか。
何通りも存在した未来の中で、ヒソクは俺が助かる道を選び、守られるべき妹でいることをやめてしまった。
神の血が憎い。
気味の悪い『声』も、ヒソクのサキヨミも、ヒソクの思い出を共有させた夢もすべて悪い呪いのようだ。5匹の神獣のように人に害をなすひどい存在のように思えた。
青の王の手には、俺を苦しめたオーア神が青くしるされている。目の前の男を、醜い神の象徴のようだと思った。
「ヒソク」
その名で呼ぶなと、怒りがわいた。
殺してやりたい。どす黒い思いがわき上がって、抑えきれなくなる。青の王はわずかに眉をひそめてから、思い出したように深く性器を押し入れてきた。
「あ……っ」
予期していない動きに、考えがぶれた。
「殺せると思うのなら、やってみろ」
歯がぶつかるほど、くちびるを合わせた。つきあげられて、冷や汗が身体中の穴から吹き出た。
足を浮かせた格好では、体格差のせいで、好きにゆさぶられるだけになってしまう。
乱暴に狭いところを広げられた。その動きにすら、快感を拾おうと意識は傾く。慣らされた身体は貪欲だった。
「あっ、あん。痛い」
発情期の動物の声が、鼓膜をふるわせる。ならったわけでもないのに、あえぎながら男を見上げることを覚えた。