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「危ない!」
ハクに突き飛ばされた。草むらに一緒に倒れこむ。はあはあとしたハクの息だけがあたりに響いていて、それは生きていることを俺に伝えた。
青の王は、俺のかたわらに立った。
「妹を見捨てて、おまえだけが楽になるつもりか?」
その問いかけに、俺はヒソクのことが、頭から抜け落ちていたことに気づいて戦慄した。ふるえはハクにも伝わってしまい、彼は身体を起こすと「あ、あんた」とふるえる声で言った。
「子どもにおそろしいことをさせておきながら、よくそんな平気な顔をしていられるもんだ。それでも血の通った人間のすることなのか!?」
青の王は、まるでハクがそこに存在していないかのように、すべてを無視して俺を見ていた。
光源などないくらがりでも、青い目は冴え冴えと光を放っていて、まるで不吉な星のようだった。
煮えくり返るような怒りが腹をみたした。出口を求めて、渦巻いていた。
ざわざわと、悪寒がつま先からかけのぼってくる。似ているものを知っていた。羽のティンクチャーをしるされた時のような、血がわきたつ感覚だった。
身体中の毛をそばだてて、やってくるものに備えた。
こめかみがキンと硬い音を立てた。
殺してやる。
心の中で強くそう願えば、強い風が吹いて、俺の髪をなびかせる。ハクは「うわっ」と叫んで、雷にでもふれたかのように俺から手を離した。
青の王は目を大きく見開いた。草むらにみすぼらしくうずくまっている俺を、はじめて見るもののように見つめた。
「姫さん、声が? もしかして声が戻ったのか」
ハクのふるえる問いかけに、俺はくちを開いた。けれど、吐息しかもれなかった。
ぐらぐらと煮え立つ頭で、もう一度、許さないと叫んだ。俺の考えをかたどった『声』は、暗闇を覚ますほど、大きく響いた。
青の王は「なるほど」と、静かに言った。
「昔、王宮にいた術師に、同じ能力を持つ者がいた。今のおまえのように、声に出さなくとも相手に思念を伝えることができた」
そう言って吐息を吐いた。
「声を失い、能力に気づいたか。星見のヒソクと同じ血が流れているのだから、術師の能力を持っていても不思議はない」
どういう意味だ、とまた声がした。頭の中で思い浮かべただけなのに、ずいぶんと大きく響いた。ゆっくりと立ち上がると、「姫さん」と弱々しいつぶやきが聞こえた。
ハクがかたわらにへたりこんでいた。化け物を見るような目で見上げていた。
俺は、優しい者を怯えさせた自分に気づいた。痩せた身体は、なにも変わらない。脚も腕も自分のものなのに、醜くゆがんで感じられて、俺の目を焼いた。
風が吹いて、あたりをゆるがせた。俺たちのまわりにだけ、吹く風だった。調理場から人影があらわれて、彼らが不思議そうにこちらを見るのが、きっと俺の『声』のせいだとわかった。
俺は自分をとりまく世界が変わってしまったことに気がついた。
「来い、ヒソク。おまえの居場所はもうここにはない」
そう告げる王は、まるで異形の者を諭すようだった。優しげな響きさえ含んでいて、「来い」ともう一度言われて、俺は伸ばされた腕にすがりついた。
殺したいほどに憎い男は俺を腕に抱いて、やってきた時と同じように庭園をあとにした。
いやだ、いやだと俺の『声』はうるさかった。
まるで他人の声みたいに耳に入ってくる。制御のきかない騒音は、いつもの自分の声よりはるかに大きくて、侍従は驚いて声の主を探した。
けれど彼らはすぐに青の王に気づいて、頭を下げて待った。そうして、通りすぎたあとになって、抱きあげられている俺をじろじろと見た。その視線にも耐えられなかった。声は「死にたい」と叫ぶ。
「私が子どもを抱きあげているのがめずらしいだけだ。いちいち気にするな」
青の王はまるでなぐさめるように、俺の背をぽんと叩いた。
「気にしないなんて無理です! 頭の中を見られているのと同じなんですよ。こんなこと、止めたくても止められないのが、どれだけ歯がゆいと思っているんですか!?」
「怒鳴るな、余計にうるさい」
そう言って少し顔を離すので、俺は「別にくちから出てるわけじゃないんだから、耳を離したって意味ないでしょう」と嫌味なことを思った。
青の王は視線を俺に戻して、「確かに」と言った。それから、床に俺を降ろした。
「おまえの言うとおり、顔を離すだけでは意味がないな。声の原因自体から遠ざかることにする。とはいえその大きさでは、青の宮殿から出ない限り、どこにいても聞こえそうだ」
そう言って、背を向けて歩き出す。俺は置き去りにされて、呆然と立ち尽くした。放り出された心もとなさが足元からのぼってくる。
「待って」
ハッとした。普段なら出ないような弱音だった。
「ちがう今のは」と、すぐに否定した。
「ひとりにしないで」
声があふれて廊下に反響したので、俺は恥ずかしさのあまり、その場にしゃがみこんでひざに顔をうめた。両手で耳をふさいだ。
誰かに助けを求めるのは苦手だった。物心ついた時から、なんだって自分でしなきゃいけなかったし、助けてくれる大人はそばにはいなかった。返せるものも持たずに、救いを求めることは悪いことだ。
甘えた心を、知られるのが死ぬほど恥ずかしい。
「うずくまっていないで来い」
俺は真っ赤な顔を上げた。離れたところで男はふり向いていて、おもしろそうに俺を見ていた。
「きらい」
「そう大きな声で言わなくても、聞こえている」
別に怒ったようではなかった。俺は立ち上がると、顔をこすって青の王のあとを追いかけた。
背の高い男とは足の長さが違うせいで、何度も置いて行かれそうになる。シアンのように歩をゆるめてくれることもないので、俺はあせって、服のはしをつかんだ。
ちらりとそれを見とがめられて、うるさそうに手をふり払われる。みっともないと思ったのかもしれない。
「抱き上げて歩くほうが、恥ずかしいのに」
「おまえ、黙っているから考えを読まれるんじゃないのか。なんでもいいから話していろ」
うんざりした横顔に、俺は「どこへ行くんですか」とためしに問いかけた。
そうすると、言葉にしたかったことと『声』が一致した。
「あ、ほんとだ。ずっとしゃべっていればいいんだ。あの、覚えたばかりの星の物語があるのでそれを話しててもいいですか?」
王は自分でうながしたのに、俺が話しかけたほうの耳をふさいだ。
「うるさいな」
「シャーがそうしろとおっしゃったのでしょう」
「どこか人のいない山にでも捨ててくるか。これでは宮殿中の者がうるさがって眠れない」
「そうするつもりもないのに、なんで冷たいことを言うんですか。俺がきらいだからですか」
さっき立ち止まって待っていてくれたから、きっと俺を見捨てるつもりはないのだろうと思いそう聞いてみた。
青の王は、「今のはひとりごとか? それとも質問なのかどちらだ」と尋ねた。
苛ついた顔に俺はひるんだ。
「ひとりごとです」
「カテドラルなら人がいない。この王宮で唯ひとりもいない場所だ。その音をどうにかするまでおまえはそこにいろ」
「建物に閉じ込めるんじゃ、山に捨てるのと変わらないじゃないですか。どうにかしてくれるって言ったのに」
「ついてこいと言っただけだ。山に捨てれば、夜のあいだに獣に殺されるがどうする。どちらでもいいぞ」
「ひどい」
俺がそうつぶやけば、先を歩く王は少しだけ肩をゆらした。必死にそのあとを追う。
カテドラルには宮殿にはめったにないものがある。
鉄製の扉だ。宮殿は基本的にどの部屋も入口に扉はなく自由に風が吹き込むが、この建物にだけは正面と東西の宮殿へつながる場所に頑丈な扉があった。
夜間はそこを閉めて、見張りを立たせる。
青の王は見張りの兵から火を入れたガラスの筒を受け取って、戸惑う彼らを無視してカテドラルの中に踏み込んだ。
王は真っ暗な廊下を迷いもせずに歩く。
広い廊下にはわき道や小さな部屋がたくさんあったが、王はそれには目もくれず一番奥まった部屋まで歩いた。
正面の門からはかなりの距離があり、暗闇のせいでさらに遠くに来たように感じられた。
入口をくぐるとまずは高い天井に驚いた。
天井の少し下の部分には色のついたガラスがはめこまれて、そこから月の光がわずかにさしこんでいる。
特別に広いその部屋はカテドラルの最奥で、つきあたりには一段高い壇上がもうけられていた。
そこに向かう道には敷布が敷かれていて、両側に細長い鉄製の椅子が整然と何列も並べられている。
先に部屋に入った王は、油の受け皿に火を灯してまわった。
たくさんの小さな明かりに照らされて、石の壁に彫られたレリーフが陰影を濃くした。
精巧に形作られた動物や正装した僧の姿があたりをとりまいていて、壇上にはティンクチャーと同じ翼をたずさえた人物が描かれている。
「ティンクチャーはオーア神を模している。同じなのは当たり前だ」
意識しなかった質問に答えてくれる。
荘厳な雰囲気に息をのんでいると、「式典に使う部屋?」と聞こえた。
もちろん俺の声で、俺はあわてて「式典に使う聖堂ですか?」と言い直した。
その音は焦ってしまったせいで、さきほどよりも大きく天井に反響した。
「もしかして、俺の気分で『声』の大きさが変わるのかな。それなら話すのと同じ小ささにすることもできるかも」
「そうしてくれ。セーブルの従えていた術師は、普通と変わらず会話することができていた。おそらく意志で相手に聞かれたくない言葉も隠すことができたはずだ」
「本当ですか!」
思わず声がはねた。
「その術師の方はなんとおっしゃるのですか? これをどうにかする方法をご存じでしょうか」
ハクに突き飛ばされた。草むらに一緒に倒れこむ。はあはあとしたハクの息だけがあたりに響いていて、それは生きていることを俺に伝えた。
青の王は、俺のかたわらに立った。
「妹を見捨てて、おまえだけが楽になるつもりか?」
その問いかけに、俺はヒソクのことが、頭から抜け落ちていたことに気づいて戦慄した。ふるえはハクにも伝わってしまい、彼は身体を起こすと「あ、あんた」とふるえる声で言った。
「子どもにおそろしいことをさせておきながら、よくそんな平気な顔をしていられるもんだ。それでも血の通った人間のすることなのか!?」
青の王は、まるでハクがそこに存在していないかのように、すべてを無視して俺を見ていた。
光源などないくらがりでも、青い目は冴え冴えと光を放っていて、まるで不吉な星のようだった。
煮えくり返るような怒りが腹をみたした。出口を求めて、渦巻いていた。
ざわざわと、悪寒がつま先からかけのぼってくる。似ているものを知っていた。羽のティンクチャーをしるされた時のような、血がわきたつ感覚だった。
身体中の毛をそばだてて、やってくるものに備えた。
こめかみがキンと硬い音を立てた。
殺してやる。
心の中で強くそう願えば、強い風が吹いて、俺の髪をなびかせる。ハクは「うわっ」と叫んで、雷にでもふれたかのように俺から手を離した。
青の王は目を大きく見開いた。草むらにみすぼらしくうずくまっている俺を、はじめて見るもののように見つめた。
「姫さん、声が? もしかして声が戻ったのか」
ハクのふるえる問いかけに、俺はくちを開いた。けれど、吐息しかもれなかった。
ぐらぐらと煮え立つ頭で、もう一度、許さないと叫んだ。俺の考えをかたどった『声』は、暗闇を覚ますほど、大きく響いた。
青の王は「なるほど」と、静かに言った。
「昔、王宮にいた術師に、同じ能力を持つ者がいた。今のおまえのように、声に出さなくとも相手に思念を伝えることができた」
そう言って吐息を吐いた。
「声を失い、能力に気づいたか。星見のヒソクと同じ血が流れているのだから、術師の能力を持っていても不思議はない」
どういう意味だ、とまた声がした。頭の中で思い浮かべただけなのに、ずいぶんと大きく響いた。ゆっくりと立ち上がると、「姫さん」と弱々しいつぶやきが聞こえた。
ハクがかたわらにへたりこんでいた。化け物を見るような目で見上げていた。
俺は、優しい者を怯えさせた自分に気づいた。痩せた身体は、なにも変わらない。脚も腕も自分のものなのに、醜くゆがんで感じられて、俺の目を焼いた。
風が吹いて、あたりをゆるがせた。俺たちのまわりにだけ、吹く風だった。調理場から人影があらわれて、彼らが不思議そうにこちらを見るのが、きっと俺の『声』のせいだとわかった。
俺は自分をとりまく世界が変わってしまったことに気がついた。
「来い、ヒソク。おまえの居場所はもうここにはない」
そう告げる王は、まるで異形の者を諭すようだった。優しげな響きさえ含んでいて、「来い」ともう一度言われて、俺は伸ばされた腕にすがりついた。
殺したいほどに憎い男は俺を腕に抱いて、やってきた時と同じように庭園をあとにした。
いやだ、いやだと俺の『声』はうるさかった。
まるで他人の声みたいに耳に入ってくる。制御のきかない騒音は、いつもの自分の声よりはるかに大きくて、侍従は驚いて声の主を探した。
けれど彼らはすぐに青の王に気づいて、頭を下げて待った。そうして、通りすぎたあとになって、抱きあげられている俺をじろじろと見た。その視線にも耐えられなかった。声は「死にたい」と叫ぶ。
「私が子どもを抱きあげているのがめずらしいだけだ。いちいち気にするな」
青の王はまるでなぐさめるように、俺の背をぽんと叩いた。
「気にしないなんて無理です! 頭の中を見られているのと同じなんですよ。こんなこと、止めたくても止められないのが、どれだけ歯がゆいと思っているんですか!?」
「怒鳴るな、余計にうるさい」
そう言って少し顔を離すので、俺は「別にくちから出てるわけじゃないんだから、耳を離したって意味ないでしょう」と嫌味なことを思った。
青の王は視線を俺に戻して、「確かに」と言った。それから、床に俺を降ろした。
「おまえの言うとおり、顔を離すだけでは意味がないな。声の原因自体から遠ざかることにする。とはいえその大きさでは、青の宮殿から出ない限り、どこにいても聞こえそうだ」
そう言って、背を向けて歩き出す。俺は置き去りにされて、呆然と立ち尽くした。放り出された心もとなさが足元からのぼってくる。
「待って」
ハッとした。普段なら出ないような弱音だった。
「ちがう今のは」と、すぐに否定した。
「ひとりにしないで」
声があふれて廊下に反響したので、俺は恥ずかしさのあまり、その場にしゃがみこんでひざに顔をうめた。両手で耳をふさいだ。
誰かに助けを求めるのは苦手だった。物心ついた時から、なんだって自分でしなきゃいけなかったし、助けてくれる大人はそばにはいなかった。返せるものも持たずに、救いを求めることは悪いことだ。
甘えた心を、知られるのが死ぬほど恥ずかしい。
「うずくまっていないで来い」
俺は真っ赤な顔を上げた。離れたところで男はふり向いていて、おもしろそうに俺を見ていた。
「きらい」
「そう大きな声で言わなくても、聞こえている」
別に怒ったようではなかった。俺は立ち上がると、顔をこすって青の王のあとを追いかけた。
背の高い男とは足の長さが違うせいで、何度も置いて行かれそうになる。シアンのように歩をゆるめてくれることもないので、俺はあせって、服のはしをつかんだ。
ちらりとそれを見とがめられて、うるさそうに手をふり払われる。みっともないと思ったのかもしれない。
「抱き上げて歩くほうが、恥ずかしいのに」
「おまえ、黙っているから考えを読まれるんじゃないのか。なんでもいいから話していろ」
うんざりした横顔に、俺は「どこへ行くんですか」とためしに問いかけた。
そうすると、言葉にしたかったことと『声』が一致した。
「あ、ほんとだ。ずっとしゃべっていればいいんだ。あの、覚えたばかりの星の物語があるのでそれを話しててもいいですか?」
王は自分でうながしたのに、俺が話しかけたほうの耳をふさいだ。
「うるさいな」
「シャーがそうしろとおっしゃったのでしょう」
「どこか人のいない山にでも捨ててくるか。これでは宮殿中の者がうるさがって眠れない」
「そうするつもりもないのに、なんで冷たいことを言うんですか。俺がきらいだからですか」
さっき立ち止まって待っていてくれたから、きっと俺を見捨てるつもりはないのだろうと思いそう聞いてみた。
青の王は、「今のはひとりごとか? それとも質問なのかどちらだ」と尋ねた。
苛ついた顔に俺はひるんだ。
「ひとりごとです」
「カテドラルなら人がいない。この王宮で唯ひとりもいない場所だ。その音をどうにかするまでおまえはそこにいろ」
「建物に閉じ込めるんじゃ、山に捨てるのと変わらないじゃないですか。どうにかしてくれるって言ったのに」
「ついてこいと言っただけだ。山に捨てれば、夜のあいだに獣に殺されるがどうする。どちらでもいいぞ」
「ひどい」
俺がそうつぶやけば、先を歩く王は少しだけ肩をゆらした。必死にそのあとを追う。
カテドラルには宮殿にはめったにないものがある。
鉄製の扉だ。宮殿は基本的にどの部屋も入口に扉はなく自由に風が吹き込むが、この建物にだけは正面と東西の宮殿へつながる場所に頑丈な扉があった。
夜間はそこを閉めて、見張りを立たせる。
青の王は見張りの兵から火を入れたガラスの筒を受け取って、戸惑う彼らを無視してカテドラルの中に踏み込んだ。
王は真っ暗な廊下を迷いもせずに歩く。
広い廊下にはわき道や小さな部屋がたくさんあったが、王はそれには目もくれず一番奥まった部屋まで歩いた。
正面の門からはかなりの距離があり、暗闇のせいでさらに遠くに来たように感じられた。
入口をくぐるとまずは高い天井に驚いた。
天井の少し下の部分には色のついたガラスがはめこまれて、そこから月の光がわずかにさしこんでいる。
特別に広いその部屋はカテドラルの最奥で、つきあたりには一段高い壇上がもうけられていた。
そこに向かう道には敷布が敷かれていて、両側に細長い鉄製の椅子が整然と何列も並べられている。
先に部屋に入った王は、油の受け皿に火を灯してまわった。
たくさんの小さな明かりに照らされて、石の壁に彫られたレリーフが陰影を濃くした。
精巧に形作られた動物や正装した僧の姿があたりをとりまいていて、壇上にはティンクチャーと同じ翼をたずさえた人物が描かれている。
「ティンクチャーはオーア神を模している。同じなのは当たり前だ」
意識しなかった質問に答えてくれる。
荘厳な雰囲気に息をのんでいると、「式典に使う部屋?」と聞こえた。
もちろん俺の声で、俺はあわてて「式典に使う聖堂ですか?」と言い直した。
その音は焦ってしまったせいで、さきほどよりも大きく天井に反響した。
「もしかして、俺の気分で『声』の大きさが変わるのかな。それなら話すのと同じ小ささにすることもできるかも」
「そうしてくれ。セーブルの従えていた術師は、普通と変わらず会話することができていた。おそらく意志で相手に聞かれたくない言葉も隠すことができたはずだ」
「本当ですか!」
思わず声がはねた。
「その術師の方はなんとおっしゃるのですか? これをどうにかする方法をご存じでしょうか」