短編

 綺麗なかたちをした腕に袖がなじんでいて、あったかい。

「俺が好きなかずとだ」

「……どういう意味?」

「俺にはかずとがこう見えてるってことだよ。きらきらの太陽」

 最初に拾って助けてもらったときから、かずとは俺の希望で夢で、光だった。

「俺の神さまが本来の輝きをまとって具現化した、って感じ」

「神さまか……黄色いパーカーにはすごい力があるんだね」

「うんっ」

 俺の気持ちを受けとめてくれながらも、かずとはまた苦々しい照れた笑いを浮かべて、大きな右手で俺の後頭部の髪を梳く。

「……ほら、寒いからはやく着な」

 Tシャツ一枚になった俺の腕の鳥肌も撫でて、それからかずとがパーカーを脱ごうとした。

「え、いいよ、すぐあの赤いパジャマに着替えるからすこしのあいだ抱きしめてて」

 かずとの手をよけて、はしゃいで黄色いパーカーの胸に抱きついたら、「わ」と小さな驚きが洩れてきた。

 笑う俺につられて、かずともすこし笑う。

 かずとの胸に顔を押しつけてこすりつけると、自分とかずとの匂いがした。
 今日一日頑張った引っ越し作業の、埃っぽい匂いも。

「……このパーカーがもっともっと、もっと大事になったよ」

 明るく生きなさい、というお祖母ちゃんの想いと、俺を助けてくれたときのかずとの優しさと、今日の匂いも沁みこんだ黄色いパーカー。

 大事な心や想い出がどんどん織りこまれていく、太陽色の宝物。

「……俺の太陽は歩和だよ」

 背中にまわるかずとの両腕も、俺の身体を強くきつく抱き竦めてくれる。

 かずとは本当にばかだな。

 この黄色いパーカーをくれて、恋や愛を教えてくれて、継父さんとの関係も整えて性暴力からも助けてくれた。
 そしてこれから、庭つきの一軒家にまで連れていってくれようとしている。

 存在している意味などない無価値だった俺を、笑顔ばかりの明るい人間にしてくれたのがかずとだっていうのに、苦笑いばっかりして自分の価値にはまだ気づいてないんだ。

 でもいい、と思った。

 温かくて厚いかずとの胸に鼻先を埋めて、愛しい香りを身体いっぱいに吸いこむ。

 これから時間はたっぷりある。
 かずとのアパートでしばらく暮らして、新居の場所と家も決めて、ふたりで新しい人生を生きながら、この想いと感謝を知ってもらうためにゆっくり何度も伝え続けていこう。

 そうだ。
 ここからの俺の人生は、かずととふたりで自分たちの命の意味を教えあいながら幸せになるためだけにある。

「……来週には引っ越し作業も終わるね。本当に、たくさん幸せをありがとうかずと」

 心からの想いを伝えて、両腕をのばした。

 いま一度、愛しい宝物のかずとと黄色いパーカーを強くしっかり腕のなかに抱き包む――。














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