言いなり著:丸木文華
「た、足りねえのかよ」
「ケイ君、ちょっとケチなんじゃないの。ガキじゃないんだからさ」
鼻で嗤われて、カチンと来る。しかしここで挑発に乗ったらおしまいだ。
「キスでも十分だろうが! いきなり、そんな何もかもやるわけねえだろ」
「わかった」
切羽詰まった様子で、剛は唇を押し付けてくる。
ごん、と鈍い音を立てて圭一の後頭部が壁に当たる。思い切り鼻柱に剛の眼鏡がぶつかり、前も後ろも痛くて、圭一は必死で顔を逸らして訴える。
「つ、剛! 眼鏡、イテエ。外せよ」
「あ、ごめん」
剛は小さく呟いて、眼鏡を放り投げる。そのまま深々と唇を貪られて、圭一は息ができない。
こんな、激しいキスだっただろうか、と考える。女とするのとはまるで違う、けれどあのときのキスもこんなにくるおしくはなかった気がする。
「はあ……ケイ君」
時折低く吐き出すように名前を呼びながら、剛は圭一の口を蹂躙する。太く長い舌を目一杯頬張らされ、上顎の裏や、歯列や、歯ぐき、喉の奥の方まで、余すところなく舐め回されて、幾度も角度を変えられむしゃぶりつくので、まるで本物の獣に襲われているような気持ちになる。
「う、うう、つよ、し」
やめろ、ちょっと待て、と言いたいのに、言葉の先が続けられない。喋ろうとすると舌をきつく吸われ、顔を逸らそうとしてもどこまでも剛の唇がついてきて、結局舌を捩じ込まれる。
次第に、意識が朦朧とし始める。呼吸をしているはずなのに、酸素をすべて食い尽されているような気がする。
こんなのは、キスじゃない。もろに口吸い、という感じだ。こんなに奥まで届くのかというほど舌を詰め込まれ、無理矢理唾液を飲まされる。剛自身の酔いは醒めていても、その呼気や舌にはまだたっぷりとアルコールが染みていて、弱い圭一はそれに酔わされてしまう。
「ねえ、ケイ君触りたい。いいでしょ、触っても。いいよね」
荒い息の中、捲し立てられる。圭一が答えられないでいるうちに、大きな手がスウェットの下をかいくぐり、肋骨の辺りを撫でてゆく。
頭の中で赤信号が点滅している。キスだけのはずなのに、もうそれどころじゃなくなっている。頭がくらくらしていて、まともにものが考えられない。
剛の男臭い汗のにおいが立ち上り、靄のように圭一の鼻孔の奥まで湿らせる。深々と圭一の口を味わいながら、剛の大きな分厚い手の平は、腹を擦り、脇を撫で、乳首を摘んで執拗に転がす。
「ううっ、ううう、ふう、う」
「ケイ君のおっぱい、可愛い。硬くなってきたよ」
おっぱいとか言うんじゃねえ、キメエ、と怒鳴りつけたいのに、出てくるのはおかしな声ばかりだ。女にも時々そこはいじられるけれど、ささやかに刺激する程度だった。けれど、剛は違う。太い指でいつまでもしつこくそこを撫で、摘み、こね回す。自分でもそこがツンと勃ち上がって芯を持ち、充血してしまっているのがわかる。
「ああ、可愛いなあ。コリコリしてきた。ねえ、舐めたい。舐めていいよね。ケイ君のおっぱい、吸っていいよね」
剛は一応、圭一に伺いを立てるが、返事を聞こうとしない。スウェットを思い切り上にずり上げて、夢中で勃起した乳首にしゃぶりつく。
「うっ、こ、ら、剛っ……、あ」
強く吸い上げられて、腰の奥がきゅんと切なく疼く。剛の吸い方は容赦がない。欲望のままに舌を巻き付け、乳輪ごと頬張り、激しく吸い立てる。
同時に大きな手は下着の下に入り込み、硬くなったペニスを鷲掴みにする。
「うあっ、ああ」
これにはたまらず大きな声を上げると、剛は乳首を吸いながら嬉しそうに笑っている。
「ケイ君、キスとおっぱいだけで勃ったんだね。嬉しいなあ。本当に可愛い」
なぜそういちいち嫌な言い方をするのだろう。腹が立っているのに酒に酔ったように意識が濁っていてろくに抵抗もできない。
性急に荒っぽくペニスを扱かれて、思わず悲鳴を上げる。
「い、イテエよっ……力、強すぎるっ」
「あ、ごめん」
剛は照れたように笑いながら再び圭一の唇に吸いつく。
「興奮しすぎて、加減できてないや……痛かったらすぐに怒って……俺、暴走しちゃってる。だってケイ君の体初めて触ったんだよ。肌が柔らかくて綺麗。舐めたらケイ君の甘い味がするよ。ここも、可愛いし……全部可愛い。食っちまいたい」
信じられないほど甘ったるい声で囁いて、器用に下着ごとスウェットパンツを脚から引き抜く。
ずるずると押し倒されて気づけば布団に横たわり、腰を抱え上げられ、いつの間にたぐり寄せたのか、近くにあったボディローションを指に取り、ペニスを扱きながら後ろの窄まりにも愛撫を加えようとしている。
「お、おい、剛っ……」
「大丈夫だよ。たくさん解すから。たっぷり時間かけるから。無理矢理突っ込んだりしないよ」
くそ、こいつ、最後までやる気だ。ご褒美はキスと言ったはずなのに、もうそれどころじゃない。
そう思いながらも、もうなるようになれと自棄になっている。どうせ言ったって引く気はないのだ。体格も力も数段上の男に死に物狂いの抵抗をしたとしても勝てるわけがない。労力の無駄だ。
それに、圭一は男に抱かれるのが初めての身ではない。もう何年も前のことだし、剛のものは大きすぎて恐ろしいけれど、逃げられるような状況でもなくなっている。力ずくでやられて大惨事になるよりは、大人しくしていた方が傷は浅くすむだろうという悲しい打算も浮かぶ。
「うっ……、く」
「ああ……ケイ君の中、熱いね……」
濡れた指が侵入してくると、異物感に総毛立つ。久しぶりの感覚だった。体がこの感覚を覚えていたことに内心驚く。一度経験すれば忘れられるような生易しいものではないけれど。この感覚を忘れたくて女を抱いていたというのに、そんな努力もあっさりと覆される。
「ケイ君の中だあ……ああ、すごいよ、動いてる……早く入りたい……ケイ君の中に入りたい……っ」
獣のような息の中で延々と繰り返しながら、剛はじりじりとそこを解して拡げてゆく。強引に太い指で粘膜を掻き回され、ローションのぐちゅぐちゅという濡れた音が股の間から響いていると、本当に女にでもなったような気持ちになる。
「はあ、あ、うう、くそっ……」
涙の込み上げる目を必死で瞑り、曖昧な快感から逃れようと唇を噛む。
また、犯されるのか。女にされるのか。支配されるのか。
いいや、違う。これは、自分が剛に与えてやっているんだ。自分が言いなりになって抱かれているわけじゃない。犬に請われて、ねだられて、仕方なく欲しいものを貸してやっただけなんだ。
「ううっ、ふう、うう、あ、はあ」
剛の指は的確に圭一の感じる場所を探り当てる。ペニスの裏側のしこりを強く押し上げられると、全身が蕩けてしまいそうに気持ちがいい。
「すごい、ケイ君のここ、すごい。硬くなるんだね。Gスポットみたいにわかりやすくなってきた。ああ、気持ちいいんでしょ。先走り垂れてるもん。ああ、すげえ、可愛い、最高」
剛が上ずった声でベラベラとうるさく喋っている。その間もぐりぐりと遠慮なく擦られて、あられもない声を上げてしまいそうになる。
汗が噴き出す。心臓がばくばくと騒いでいる。こんなに、ここは気持ちよかっただろうか。こんなに感じていただろうか。まさか、剛のやり方が上手いのか。
「ねえ、もう、いいかな。いいよね。指、こんなに入ってるもんね。もっとたくさん濡らせば、入るよね」
いよいよ我慢がきかなくなったのか、剛は嵐のような息を弾ませて、指を抜き取り、自身のものをローションにまみれさせる。脚を大きく広げられ、分厚い体にのしかかられる。
ああ、とうとう突っ込まれるのか。そう思うと、背筋を震えが走る。怖くてたまらないのに、わけのわからない興奮が込み上げる。
「い、入れるよ、ケイ君っ……」
言い終わるか終わらないかのうちに、尻に恐ろしいほどの圧力を感じ、ぐちゅりという形容し難い音と共に、そこがひどく大きく拡げられる感覚が弾ける。
「うあっ……」
「ああ、きつい、すげえ、あ、ああ、ケイ君の中、ああ」
一瞬目の前が真っ白になった後に、視界がやけにクリアになる。間近にある剛の顔が汗に濡れて歪んでいる。眼鏡を外した剛の顔を、このとき初めてまともに見て、圭一は息を呑んだ。
眼鏡をかけていたときとはまるで印象が違う。こんな最中だからだろうが、噎せ返るほどの色気が滴り、覚えず顔が熱くなってしまうほどになまめかしい。
新鮮な驚きはすぐに尻の中に侵入してくる巨大なものの感覚に掻き消される。
ずん、と腹の奥を突かれて、圭一は声にならない声を上げ、胴震いした。
生理的な汗がにじみ出る。こんなに奥まで犯される感覚など知らない。
「ああ……全部、入ったあ……気持ちいいよお、ケイ君……」
ずっぷりと押し込んだまま、剛は恍惚とした表情で、深く圭一の口を吸い、舌を絡める。次第に馴染んでくると、じわじわと奇妙な快感が奥から込み上げてきて、わけもなく大声を出したくなる。
「ケイ君、ねえ、大丈夫? 平気?」
「平気、なわけ、ねえだろうが……」
「でも、意外とすんなり入ったね……ケイ君、もしかして経験あるの」
「こんな、でけえ、の、初めてだ、って」
「じゃあ、別のは入れたことあるんだ」
隠していても仕方がない。お前が初めてだと言って剛を嬉しがらせるのも癪だった。
しかし、ショックを受けるかと思った剛は、意外にも冷静な顔をしている。底光りのする目をして、圭一をじっと凝視している。
「ねえ、誰? 俺の知ってる人?」
「お前は、知らない」
沢村の人のよさそうな顔を思い浮かべる。あんなに大きなトラウマになったはずなのに、その顔は輪郭も曖昧ではっきりと思い出せない。
そういえば、吉住の顔もそうだ。あの頃に関わった同級生たちの顔はすべてフィルタがかかったようにぼんやりとしていて、無理に思い出そうとすると頭が痛くなってくる。
嵐のように過ぎ去っていった中学二年生の夏の日々。あれは、本当に存在していたのだろうか。まるで夢のように頼りない記憶なのに、体だけはしっかりとその痕跡を留めているのが皮肉だった。
「ずっとずっと、昔の話だ」
本当に遥かに遠い記憶のような気がする。実際、まだ五年程度しか経っていないはずなのに、どうしてこんなに霞がかっているのだろう。
「俺、そいつのこと知ってる気がするよ」
そんなはずはないのに、剛は適当なことを言う。
「でも、今は俺がケイ君を抱いてるんだ。そんなやつのことなんか忘れさせてやる」
強い力で抱き締めると、剛は徐々に動き始める。
「くっ、ううっ、あ、ふあ」
中を擦られると、どうしても声が出る。女と普通のセックスをしているときはほとんど声など出さないのに、体の奥まで犯されていると声が漏れるのを我慢できない。尻に直接性器を深々と入れられて揺すぶられているのだから当然なのかもしれない。
「ああ、いい、ケイ君、ケイ君っ」
剛は動いている最中もうるさく喚いている。腰を忙しなく動かしながら、犬のように圭一の顔中を舐め、飽きもせずにキスを繰り返す。
「んっ、んうっ、ふうっ、ふうっ」
ずっぽずっぽと奥の奥まで捩じ入れることを繰り返される。最奥を突かれる度に、剥き出しの神経を擦られるような、目も眩むほどの衝撃が弾けて、意識が混濁する。
「ねえ、ケイ君、奥、好き?」
「う、ふ、わ、わかんね、あ、あっ」
「だって、前のやつのは奥まで入らなかったんでしょ? だから、ここは俺が初めてなんだ。奥の処女は俺がもらったんだ」
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