「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」著:朝丘 戻/ill:yoco

あらすじ

書誌情報
「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」
著:朝丘 戻/ill:yoco [価格:本体1,800円+税]
ISBNコード:978-4-86134-786-3/判型・仕様:四六判ソフトカバー

人物紹介

試し読み

 恋人と見つめあい、手を繋いで投身した日の情景は、記憶のフィルムに刻まれていていつでも再生することができる。だが愛しさや無念さや決意も映像の一部でしかなく、これは俺自身の罪だ、自分のせいで恋人が死んだのだ、という自戒のみが強烈に残っていた。
「心中するとき、死ぬのは怖くなかったの」
 そう追及されても、すべての感覚があやふやすぎて語れない。リンに語ることでもない気がする。なので論点をリンの死への恐怖にすりかえた。
「リン、死ぬのは辛いことじゃない。現世での務めを終えたらまた来世で使命をまっとうするのをくり返すだけだ。いまの友人や家族と一度別れることにはなるけれど、リンの魂に死はこない」
「一度別れるって、また会えるわけじゃないでしょ」
「そうでもない。魂同士に縁があればくり返し出会い続ける。知りあった瞬間に懐かしさを感じたり一目で惹かれたり打ち解けやすかったりする相手は、魂に馴染んだ相手なんだよ」
「じゃああなたも恋人にまた会えるんじゃないの?」
 話題の先を俺に戻されてしまった。
「天使に魂はない。一度天使になったらすべて末梢されて無になる。縁も未練もなにもない」
「興味もないんだ」
「彼もどこかで幸せになっていればいいとは思うよ」
「〝彼〟……」
 リンは口を噤んで言葉を切った。また地上の木々に視線を転じて、なにごとか物思いに耽る。
「羽根がないね。空は飛べないの?」
「浮くことはできる。俺たちには重力も関係ないから」
「飛ぶってどんな」
「どんな。気持ちいいし自由だよ」
「そう……。あなたは空から落ちて死ぬっていう怖さも知らないんだね」
 人間じゃない、という事実を、リンが感情や感覚の距離で感じ入っているのを察知した。自分に恐怖心が欠けているのを自覚する。そういえばそうだ。かつて高所から落下して死んだにもかかわらず、いまは転落死の恐怖も、あるいは安堵も、俺にはない。
「ほかの天使って見える?」
 リンがまた質問を変える。
「見えない。人間には必ず天使がついているからリンの行動を操作されていることもあるだろうがおたがいさまだ。阻止するのは不可能。受け容れて対処していく」
「ひとりぼっちだったんだ」
 ひとり。たしかにひとりだった。傍らにはつねにリンがいたがひとりでいた。
「ひとりで不自由したことはなかった。ただ、うまく言えないけど……リンに自分の声が届くと思っていなかったから困ってはいる」
 リンに投げた声を本人が受けとって、こちらも返答をもらう。ささやかとは言えない異変を持てあましているのは自分もおなじだ。
「困ってるようには見えないよ」
「さっきも言ったように感情が希薄だからね」
「届くと思ってなかったってことは、俺に話しかけてくれてたの」
「たまに。今日は饒舌だ。たぶんリンと話せて浮かれてるんだと思う」
「浮っ……そんなことも冷静に言うのかよ」
 苦々しげに笑うリンを見つめた。自分を認識してくれるようになって初めて見た笑顔だった。
「……リンの人生は二度見てきた。話しかけてもなにをしても、きみは俺に気づくことはなかった。だからこうして接することで自分がリンの感情の一部になってしまうのが奇妙だ」
 リンも俺を見返す。真剣な目もとを風に揺れる前髪が邪魔している。
「天使って俺が思ってたのとだいぶ違う。羽根もないし、頭に輪っかもないし、裸の子どもでもない。それに寂しそう」
「……そうか」
 背後で洗濯物のシーツがひるがえって清爽な音をたてている。公園のほうから犬や子どもの声もかすかに響いていた。
 ゆるやかな、優しい時間のながれのなかに俺の存在が有るのだと、リンの目が訴えている。

「ねえ……夜も一緒にいるの?」
「いる」
 俺がベッドの横で椅子に座って寄りそうのは、リンにとってたいそう不都合なことらしい。布団をかぶって背中をむけて、しばらくするとふりむいて俺がいるのをたしかめてがっくりするのを、三回ほどくり返した果てに「はあ……」と息を吐いて脱力した。
「あなたはいつ眠るの」
「俺に睡眠欲はない。食欲も性欲も」
「一晩中そこにいて見てるってこと? 必要ないよ、意識がないんだから」
「リンの見る夢が幸福なものとはかぎらない。たまに悪夢を見て泣くこともあるだろう。そうしたら幸せをあげないといけない」
 複雑そうでいて諦念もまざった、大きなため息がこぼれた。
「……なんでも見てるんだね」
「見てる」
「ってことはさ、あの……いま気づいたんだけど、俺がその、性欲の、そういうことしてるときも、まさか見てたの」
「見てた」
 今度は一気に紅潮する。
「恥ずかしがることはない、繁殖行為は大事なことだよ。俺は今世でリンを産んでくれた両親に感謝してる」
「俺は、でも、」
「リンはひとりで性欲を満たしたあと、男や藤丘を対象にしたのを悔いて泣いたりするだろう。心配なのはそれだけだ」
 瞳から生気がひいてリンの感情が凪いだ。
「……本当に、見てたんだね」
「見てたよ」
 藤丘先輩のことまで知られてるなんてな……——と、リンの胸のうちから観念したような呟きが聞こえて、俺は自分の〝藤丘〟という発言がリンを落胆させたんだと遅まきながら理解した。
「……前世の俺ってどんな奴だった」
 降参したようすで問うてくる。
「とくに大きな変化はない。時代や家庭環境による多少の違いはあるけれど、魂に刻まれている性格の根っこは変わらないよ」
「具体的に言ってよ」
「いまよりはちょっと頑固だったかもしれない。強がりというか」
「いまの俺は甘えたってこと?」
「少なくともぬいぐるみにキスする子じゃなかったと思う」
 またムーさんを投げられた。落とすなと言われていたので叩き返したらリンの顔にぶつかってしまい、「うぶっ」と声があがった。
「かわいそうだろ、大事にしろっ」と文句を言われる。理不尽だ。
「リンは純粋で一途で、他人思いの優しい子だよ。担当してるという欲目を抜きにしても惹かれる」
「惹かれるとか。感情がうすくてもそういうこと思うんだ」
「思う。リンの担当になれた自分は運がよかった」
「喜ぶことかどうかわかんないけど……まあ、一応、ありがとう」
 苦笑いするリンから目がそらせなくなってしまった。……ありがとう、と反芻する。
 自分自身の言葉によってリンが喜びや嬉しさを抱く日がくるとは思ってもみなかった。
「でもやっぱり一晩中真横にいられたら眠れないよ。あ、子守歌とかうたってくれる?」
「歌……」
 リンが赤ん坊のころ母親にうたってもらっていた子守歌を真似てみたら、とたんに大笑いされた。
「音痴すぎる……っ」
「……リン、この病室にはきみしかいないからあまり大きな声でしゃべらないほうがいい」
「だって……だって、歌ひでえ、天使なのにっ」
「しー」
 布団にもぐってひとしきり笑い続けたリンは、やがて疲れて寝入ってしまった。
 ——ありがとう。
 さっき聞いたリンの声が耳の奥で響き続けている。
 ガラス窓のむこうでは満月まで三日ぶん足りない月が、今夜も白々と輝いていた。


 先日五島朱美が生けていった花が、窓辺で日ざしを浴びながら甘い香りを放っている。
「凛君、今日はちょっと顔色がよくないから一日安静にしててね」
「……はい」
 検診を終えて柏木が退室すると、リンはやや消沈して自分だけに聞こえる小さな嘆息を洩らした。
「午後には母親がまたオレンジジュースを持って見舞いにきてくれるよ」
 励ましたつもりだったが、リンは無理矢理に笑顔を繕ってベッドへ横になった。
「ありがと。ちょっと寝て体調戻すから、そしたらまた屋上いこーぜ」
「……ああ」
 仰むけで目をとじるリンの額に脂汗がにじんでいる。唇を時々ひき結ぶのは心臓が痛むからか。
 自分の気配はリンが眠るのに目ざわりだろうと考えて屋上へ移動した。こうしてリンに見られている者、リンの目に存在している者、として行動を抑制しなければならない煩わしさが新鮮だ。
 公園にいる人間や風にさざめく草木を見おろして、頭上の青空を仰ぐ。毎日病室で生活し、世界や国内を旅行することに憧れるリンにとって唯一の外界、太陽と風を感じられるひらかれた場所。
 西から近づいてくる灰色の雲を眺めてただよっていると、リンの心の声が聞こえてきた。
 ——苦しい、死にたくない、痛い辛い、痛い痛い、死ぬのはいやだ、今日はいやだ、まだ生きたい、もうすこし、お願い、もう一回藤丘先輩に会ってから死にたい、まだいやだ、生きたい生きたい。

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書店員様の声

今回、前半200ページ弱を先行して書店員様に読んでいただきました。
そこで、感想の一部をご紹介致します!!

感想をお送りいただきました書店員の皆様、ありがとうございました。

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朝丘戻先生スペシャルインタビュー

新作「Heaven’s Rain 天国の雨」は朝丘先生の初の四六判小説であり、448Pという大ボリュームの1冊になりました!
そんな特別な1冊の発売を記念して、作品のこと、朝丘先生のことをたくさん伺いました!

●作品について

———本作のテーマ、内容を簡単にお教えください。

自分が小説をとおして訴え続けている、自身の幸福観がテーマの柱です。

それを再び新たに鮮やかに掘りさげるために、
今回は現代ファンタジーという世界で、羽根のないおじさん天使と、病弱な少年の出会いを描きました。

———この作品を描こうと思ったきっかけはなんですか?

降りてきた、としか言いようがないです。五年前のことです。
きっかけは作品によって違いますが、今作は最初におじさん天使である暁天と、彼と恋するリンの姿が見えてきたので、そこから物語をかためていきました。

———執筆期間はどのくらいでしたか?

約半年と一ヶ月です。

———凜、暁天の名前の由来などはありますか?

由来はありません。 名前はいつも、ぱっと浮かんだものを故意に与えています。
逆に、ぱっとでないときは「この人はいま生まれる運命じゃないんだな」と思っていったん放置したりするんです。

ただし名前にあてた漢字には、全員理由があります。
作品を読んでくださったかたに、彼らの人格などから感じとっていただけたらとても嬉しく思います。

———凜、暁天のイメージモデルがいましたら教えてください。

絵をお願いする際にyoco先生に伝えた髪型、髭、なんかのモデルはいます。
齟齬がないようにしたかったからで、それ以上でも以下でもありません。
が、内緒にさせてください……わたしは思い出すたんびに笑ってしまいます。
yoco先生はどう感じられたんだろう。
ファンというわけでは、なかったんです、格好いいとは思ってるけど……。

———最初に生まれた人物は?

上記でさきにご紹介させていただいてしまいましたが、暁天とリンのふたりです。

———先生が一番描きたかったシーンはどこですか?

すべてです。

———書いていて楽しかった、また辛かったシーンなどはありますか?

すべて楽しくて、すべて胸が苦しかったです。

———初めての四六判・小冊子付き限定版ということで、一番ここをこだわった! という点があったら教えてください。

すべてにおいて細部まで手を抜かないこと、をいつも以上に心がけました。

作品は、出版社、担当、挿絵担当の絵描きさん、読者様への贈りものだと思っています。
内部にはどんなに迷惑をかけてもかまわない、素晴らしい一冊にしてそれで責任をとるから、とにかく読者様に胸を張って贈れるものをつくる、と考えてつねにむきあっています。
今回も自分の作家力のなさと、そのうえでの四六判を出版するという責任の重さを自覚していたぶん、物語、絵、キャッチ、装丁、帯、販売方法、なにもかもすべて真剣にとりくみ、ご尽力くださる方々とともに丹精こめてつくってきました。
一番、なんてありません。
すべてにおいて全員の心と努力がつみ重なって生まれた、こだわりの一冊です。

●朝丘先生について

———朝丘先生が小説家になろうと思ったきっかけはありますか?

ある作家の作品に出会ったのがきっかけです。

昔「やおい」を激しく嫌悪していたころ、親友が「わたしハマったかも……」と告白してくれて、「これはいけない。親友の気持ちを理解しなければ」と手にとった本がその小説でした。
それまでわたしも絵を描いていましたが、その小説に出会ったとき「自分の書いている絵に意志があるのか?」と思い至って絶望しました。
空っぽだったんです。本当は限界も感じていました。絵には劣等感も向上心も芽生えなかったから。

それでその想いを若気の至りで作家さんへ手紙にしたためて送ったら、わたしの「意志を持って、他人に伝えるためのものを書きたいと思った」という言葉に、「あなたがデビューしてくるのを待っていますよ」というお返事を頂戴してしまいました。
「えっ、デビューなんてだいそれたことは考えてなかったのに……」と動揺しましたが、次の瞬間にはワープロを抱えて部屋へ駆けこんでいました。

その後デビューしたあとは作家さんに直接ご報告にもいきました。
いまでもわたしにとってその方以上の作家はいませんし、支えであり原点です。
一生超えられない、超えるつもりもない師。
自分の人生に対して運命なんて大仰なものをあげるとしたら、これが唯一の、その奇跡です。

———執筆中にしていること、たとえば聴いている音楽など、欠かさないことなどございますか?

ある物を身につけて、それをつけているあいだは作品の彼らに恥じる行為は絶対にしない、と誓っています。
飲酒とか、エッチな本を読むとか、そういう欲望の一切を禁止するんです。

音楽は作品イメージにあわせた一曲を延々とリピートし続けます。
だいたいしっとりした曲なので、たまに頭が破裂しそうになります。

だから執筆が落ちついたらエッチな本を読んでがちゃがちゃした曲を存分に聴きます。けど、またすぐ我慢できずに書き始める、というループです。
余談ですが、雑誌ダリアさんで連載が始まる西野先生原作の漫画がすげえ楽しみなので、エロ解放期間にまとめ読みしよう、と計画しています。

———執筆中に筆が止まってしまった時は何をしてリフレッシュしていますか?

とまるというか、次に彼らがどういう行動をするのか、なにを言うのか、見えなくなるときがあります。
そうすると散歩します。 公園を抜けてコンビニへいって、木々や鳥や子どもを眺めていると脳内の視野もひろがっていき、作品の人物たちが自然と動きだします。

———先生の一番の癒しとは何ですか?

小説を書くことです。

———先生の宝物を教えてください。

挿絵をお願いした絵描きさんの絵たち。
読者様から頂戴した手紙やプレゼントたち。
小説を書き始めてデビューもしていなかったころ、初めて手紙をくださったかたからもらった木彫りの天使。

担当や友だちや読者様がくれた言葉も、と言おうと思いましたが、宝物というよりは、わたしを学ばせて導いてくれる光でした。

———先生の作品には、魅力的な女性がよく登場されますが、女性を描くときのこだわりや先生ならではの決めごと等ありましたらお教えください。

「同性愛の辛さ」を描くことも信念としているのですが、それは男女それぞれがいてこそ成りたつものだと思っています。
なので、ボーイズラブの場合は女性も率先して真摯に描いていきたいと考えています。
個々の性格や外見にこだわりはあれど、むしろ純粋に好きな想いでしか描いていません。 女の子も大好きです。

そういった信念があることから、挿絵をお願いする絵描きさんに対しても「女性も楽しく描いている人」というのをひそかに条件にさせていただいています。
ツイッタなど拝見して「女の子のおっぱーい」とかおっしゃっていると、よしお願いしよう、と意気ごむんです。

———今までの作品の中で担当編集との打ち合わせで一番印象に残った出来事はありますか?

どんなことも日々の端々でよく思い返します。

大事にしているのは、一作目の『君に降る白』のあと「編集者になる前から朝丘さんのこと知ってたよ」と聞かせていただいたのを機に、おたがいいろいろ披瀝した日のことです。
どうやってわたしの担当になったのか教えてくれましたし、わたしもなにに悩み、なにを目指しているのか、すべて話しました。
それはいまもおなじで、パートナーとして自分の葛藤は包み隠さず話すようにしていますし、「朝丘さんなんなのもう…」とあしらってくれる人柄に救われてもいます。
ドライかと思いきや、『あめの帰るところ』の修正をしていたとき、わたしが『携帯電話で一番星の写真を撮ったよ』と書いた部分に対し、「月にしましょう。だってわたしも携帯電話で星を撮ったことありますけど、撮れなかったから!」と指摘してくれた、乙女な人だったりもします。
ツイッタでも裏話をしましたが、Skypeで話ながらわたしが真剣に文章修正しているってのに、チャットで「\(^o^)/」とか送って邪魔してきて「暇なんだもん」とか可愛いことも言います。
担当になって一番最初に「わたし褒めませんから」と宣言してくれたところも好きです。手放しで持ちあげる人やお世辞言う人が担当だと、読者様に喜んでいただける本がつくれないので。
おたがい真剣すぎるので、本をつくっていると毎回必ず一度は険悪なムードになるんですけど、和解する都度、それまで以上に絆が深まっているのも感じます。

出会ってから七年のつきあいになります。 信頼している担当にも恩返しになる作品を贈り続けていきたいです。

———今回、タイトルにも「雨」という言葉が入っており、また朝丘先生自身も「雨」がお好きとのことですが、先生が「雨」をお好きな理由はなんでしょうか?

小説を書き始めたころから不思議とつきまとわれるようになりました。
昔はそんなことなかったのですが、いまは執筆に熱中していたり、重要な場面を書いていたりすると外に雨が降っています。
それに、曇り空のときに外出すると必ず降ります。
連れがいて降ってくると「やっぱりね」「わかってたけどね」とため息をつかれます。
会社員だったころ先輩に「あんたと一緒に帰ると降るからひとりで帰って」と拒絶されたのがいまでも忘れられないです。結局降ってげんなりさせました。
でも晴れすぎていると蒸発して倒れてしまうので、雨のしずけさとすずしさがやっぱり心地いいです。

———先生が作品を書くなかで、一番嬉しい瞬間とはどんなときですか?

登場人物たちが幸せなのも苦しいのも、恋する相手に出会えた証拠なのでそれぞれ全部嬉しいです。

ふたりの心が通じあう瞬間は心も震えて、初めてのキスとか、手繋ぎとか、セックスとか、触れあうときは涙がでるぐらい一緒に嬉しくなります。
セックスシーンも、その後のピロートークもお風呂も、いつまでもいつまでも書いていたくなります。
好きで好きで片想いで報われないあいだも、傷つくことのできる幸せを強く感じて満たされます。
たとえ一緒にいられなくなっても、相手の存在が刻まれたその後の人生は孤独じゃなく幸福に違いない、だからやっぱり嬉しいです。

———最後に読者の方にメッセージをお願いします。

これまで自身のことを「作家」「小説家」と言うときは、そこに到達していない自分への戒めのような気持ちがつねにありました。

書いてきた作品に後悔はありませんし、しません。そのときの精一杯だったと言い切れます。
ですが反省点は必ずあり、自分は未熟な成長途中のままで、作家、小説家と堂々と言うには力不足であると歯噛みしていたのです。
だから文章や物語づくりについて勉強しながら、どうしたら自分の伝えたいことが多くの読者様に伝えられるか、出版社にも絵描きさんにも読者様にも喜んでいただけるかと、作品を書くごとに懊悩し続けてきました。

考えすぎてがちがちになっていたその自分の心が晴れたのが『坂道のソラ』以降です。
あのころ、あ、この歩き方で間違ってなかったんだ、と思えました。
成長したくてどんなに悩んでも、その悩みの方向が間違っていたら意味がありません。でも「正解」の尻尾を掴むことができたのです。
しかしそれはわたしの力ではなく、yoco先生の魅力的な絵が読者様の心をこちらにむけてくださったのが大きなきっかけだったのだと自覚しています。
yoco先生がくれたものは、たしかな一筋の光明でした。

今回、四六判というお仕事を頂戴して『Heaven's Rain 天国の雨』のふたりが降りてきたとき、わたしのなかに再びyoco先生の絵で彼らが生き始めました。
ただでさえ責任重大なのに、『ソラ』を好いてくださった読者様にも『ソラ』と同等かそれ以上の感動をお贈りしなければならない、yoco先生の名前も汚すわけにはいかない、というプレッシャーも背負ったわけなのですが、それでいい、挑みたい、挑める、と思いました。

そうして完成した今作は確実にいままでのわたしではない、でもわたしらしさが満ちあふれた一歩です。
ようやく自分のことを作家で小説家だと、気後れなく言えるようになりました。

とはいえ一歩にすぎません。遅すぎる一歩です。
反省しつつ、今後も成長していくために努力し続けていきます。
なので、よろしければまず『Heaven's Rain 天国の雨』の彼らに会ってやってください。

死別の場面もありません、別れもありません、切なくて泣ける物語でもありません。
唯一の相手と永遠に結ばれる喜びに満たされて、熱い至福感で胸が千切れる、ごくごく単純な物語です。 これがわたしの幸福観です。

お贈りするために、魂を削って制作陣全員で細部までこだわり抜いて、大事につくりこんできました。
読者様の心にも触れることができましたら、こんなに幸せなことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。

yoco先生の人物ラフ公開

yoco先生による、人物ラフイラストです。

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 ご参加くださった読者の皆様、ありがとうございました

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