「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」著:朝丘 戻/ill:yoco

あらすじ

書誌情報
「Heaven's Rain 天国の雨 Limited Edition」
著:朝丘 戻/ill:yoco [価格:本体1,800円+税]
ISBNコード:978-4-86134-786-3/判型・仕様:四六判ソフトカバー

人物紹介

試し読み

「お盆はどこかにいくの」
「いいえ」
「友だちは?」
「プールにいくって言ってましたね」
「一緒にいかないんだ」
 肩をすくめて濁す。
「泳げない病気なのかな」
 なぜそう察しがいいんだ、と舌打ちしそうになった。
「暁天さんは好きになった男がいたっておっしゃってましたね。その人と一緒にいないのはどうしてですか」
「いるよ」
「いる……?」
 進行形の表現に躓く。暁天さんもふたりの人間のあいだを往き来しているのか、と訝しんだら、彼は微苦笑して自分の胸を右の掌で押さえ、
「ここに」
 と言った。
「彼は永遠にここにいる」
「……亡くなったんですか」
「まあ、そうだね」
 心の奥にだけ存在している恋人。
「俺と似た境遇だった? だから俺の病のことも言いあてたんですか」
「半分は〝イエス〟かな」
「もう半分の〝ノー〟はなんですか」
「秘密」
 かすかに芽生えた同情をあしらわれてむっときた。
「自分の兄が関係を持ってる男を好きになるなんて妙だと思ってました。前の恋人とシンクロするから勝手に運命を感じてるんですね。俺じゃなくて昔の恋人をひきずってるんだ」
「俺の真意がどうあれ、その質問には『ノー』しかこたえがないよね」
 動揺するでもなく、暁天さんは毅然と俺を見つめている。
「きみは自分の命をかけて兄とつきあってるんでしょう。最期の恋愛でいいと想ってる」
「え」
「恋人がいた経験はないんじゃない。恋愛に憧れていたけどゲイだし身体も弱いし諦めていた。でも兄が初めて受け容れてくれたから傍にいたい。——違う? そういう愚直な一途さが好きだよ」
「なに、言ってるんですか」
「友だちともあまりうまくいってないんだね。健康で優しい友だちに感謝の念はあるけれど、劣等感と嫉妬心もある、疎ましさも拭えないってところかな。きみの心はいま兄ひとりに占められていて兄以外の人間との未来を考えてもいない。俺はその未来になりたいと思ってるよ」
 指先から身体が冷えていく。
「……どうして、」
 わかるんですか、と肯定したくなくて言葉尻を噛んだが、暁天さんには伝わっていた。
「きみを見てたからね。ずっと」
「弁当屋の接客だけでそこまで筒抜けになるわけがない。透視能力でもあるみたいだ」
「ないよ。透視能力があるんなら……、」
「なら?」
「きみの裸を見て欲情してる」
「ふざけないでください」
 心底を根こそぎ見抜かれて気持ち悪い、と嫌悪した。でも嫌悪こそが肯定だ。たしかに俺は友だちにも自分を偽って接しながら瑛仁さんの存在にのみ縋っている。
「あなたは前の恋人への感情を俺にあてはめてるだけだ、そうでしょう……? 再三言ってますが、俺は暁天さんとつきあう気はありません。瑛仁さんと別れて弟さんに乗りかえること自体ありえないじゃないですか。自分の愚かさは重々承知してます。ご家族のお怒りももっともです。けど暁天さんにどんな思惑があろうと、俺に囚われているよりご自身の幸せのために時間を費やしたほうがいいと思います。たとえ俺とつきあっても、いずれその昔の彼氏さんとおなじ別離をくり返すだけなんですよ。今日で終わりにしてください、瑛仁さんの前からも必ず消えます。すみません、お願いします」
 ありのまま正直な気持ちを訴えて、頭を深くさげて祈るように強く目を瞑った。
 瞼裏に瑛仁さんが俺によく見せてくれる苦笑と、それから彼の背中が浮かんできた。背中はなんの未練も感じさせない足どりで遠退いていく。どんどん小さく、米粒大になっても立ちどまりもしない。あの人は俺を忘れるのではなく、最初から記憶にとどめようともしていないのだと知っている。
 昨夜彼の手が自分から離れたとき目をそらさなければよかったと、とりとめもない出来事の激流のような後悔が唐突に押し寄せてきて潰されそうになった。
 ばかな恋だ。俺はばかだ。頭で理解しているまま正しく諦めて捨てられたらいいのに、でも正しいままいられない衝動が恋だ。恋は狂気だ。
「はい、これあげるよ」
 肩を叩かれてはっと瞼をひらくと、なにかつきだされた。闇に目を凝らす。カードのようなもの。
「押し花……?」
「ここで拾った朝顔でつくったんだ」
 それは紙片に押し花をそえてパウチしたしおりだった。よく見えないから何色かはわからない。
「むしったんですか」
「拾ったって言ったでしょ。綺麗なかたちのまんま落ちてたから救出したんだよ。きみにあげようと思って何日か本にはさんでおいた」
「この公園の花は採取禁止されてるんですよ」
「踏んで潰される前に保護したってことにしておいてよ」
「潰してるじゃないですか、こんなに平たく」
「リンの歯に衣着せない物言いが嬉しくて涙がでそうだ」
 綺麗にラミネート加工してつくられたしおりを眼前に近づける。……ピンク、いや水色だろうか。
「お盆休み、暇ならうちにおいで。図書館にも負けないぐらいたくさん本があるから」
 暁天さんは俺の告白の一切を無視して、朗らかに微笑んでいる。


 ベッドの上でため息をついた。お盆休み期間に入ってから雨が続いていて怠い。
 湿度の高い、身体にじっとりまとわりつく暑さ。喉が渇いたけど起きあがるのが億劫で、ひたすらに惰眠をむさぼる。脚を自分の体温で熱くなった場所から退け、シーツの冷えている部分に移動させて寝返りを打つ。腹にかけているタオルケットも、目をとじたまま整える。
 シーツはタオル地と決めていた。つるつるした素材は病院のベッドを連想する。あのいかにも清潔そうな脚の滑るシーツが気持ち悪くて嫌いになったのは、幼少期に長期入院していたころだった。
 とも働きだったこともあって親もつきっきりでいたわけじゃなかった。一日の大半ひとりで過ごす生活の場はベッドの上。食事をするのも、院内を散歩して帰ってくるのも、暇を潰すのも、発作を起こしてもう死ぬかもと朦朧として考えるのも、寝るのも起きるのも、喜ぶのも泣くのもそこ。
 四六時中身体の皮膚をこすられていると、だんだんそのするするした感触にゴキブリが這いあがってくるのに似た悪寒を覚えるようになり、神経まで蝕まれて苛々させられた。むしゃくしゃと自転車をこぐみたいに暴れたら摩擦で熱くなって反撃を食らった。
 物言わぬ無表情なシーツは傲然とかまえていて、おまえは一生ここに這いつくばったまま、死ぬときも必ず戻ってくる、と嘲笑われている気がして悔しくて泣いた。声は俺の妄想なのだから、無論俺自身のものだ。真っ白いベッドの上にいつか再び戻っていくのを、俺は知っている。病院からも病気からも逃げられない。
 情けないけれど当時のあの不快感はいまだに根づいていて、入院生活を免れているいまはともかくタオル地。くしゅくしゅ毛羽だった肌触りに安心する。枕から頭をこぼして右頬をつけ、撫でつけてもう一度ため息をついた。
 お盆に会おう、と複数人に誘われたのにひとりでいるのは自分のせいにほかならない。
 ひとつだけ宙ぶらりんになっている誘いもあるが、掴むでも叩き落とすでも縋るでもなく、ぼんやり回想するだけだった。
 雨のせいか朝から頭痛に見舞われているにもかかわらず、一時間ほど前には母さんに通院報告の電話で、問題なかった、今日も調子いいよ、とごまかした。自分を弱いと思うのは嫌いだ。
 起きて、シャワーで汗をながして、すっきりしたら料理をする、今夜はバイトを入れているからそれまでテレビを観る。刑事ドラマの再放送か、報道番組か——行動をシミュレートして自分にやる気を起こさせようとしていたら、枕もとの携帯電話が鳴った。手にとって見ると尊からの着信だった。
「はい」
『よう、寝てた?』
「いや、起きてたよ」
 尊は基本的に電話派で、メールは授業中やバイト中や移動中やデート中などの、自分に都合の悪いときしかしてこない。『友だちだから』なのだそうだ。『メールって便利だけど狡っこくね? 大事な奴とはちゃんと声で話してーわ。そのほうが楽しーし』と、昔言っていた。
『昨日プールいってきたぜ。今日雨だったから昨日でよかった』
「そうか」
『午前中はながれるプールでぐるぐるまわってたんだけどさ、午後はすげえなっげえ滑り台にはまってあほみてえにみんなで何度も滑ったわ。石井の奴、プールサイド走るなって監視員に何度も怒られてやんの、あいつガキだわ〜。女性陣の水着もよかった、渡瀬はまあた胸でかくなっててやべえわ』
「……へえ」
『おまえはなにしてた? なんか元気なくね?』
 尊の無邪気さや純真さは、時折俺を息苦しくさせる。
「大丈夫だよ」と苦笑したら、尊は『身体悪ぃんなら病院いけよ』と労りを口にした。
 プールの話を聞きながら、重たい身体を起こしてソファーへ移動し、胡座をかいた。ローテーブルには数日前にもらった朝顔のしおりがあり、手持ちぶさたにとって掌で弄ぶ。まるくカットされた角の触り心地を人さし指の腹で味わったり、潰されても盛りあがっている花の存在感をたしかめたり。
 あの日帰宅したあと灯りのもとで見て気づいたのだが、押し花の裏には携帯番号とメールアドレスが記されていた。小学生の漢字ドリルにある見本みたいに美しく整然とした筆跡で。
『つか、この前香澄が浮気してるかもって言ったじゃん。あれやっぱガチだ。あいつ、プールは先約あってこられないっつってたんだけど、夜は時間あるっつうから食事の約束しててさ、ンで会ったらめっちゃ石けんの匂いさしてんの。髪も洗い髪だったし、ありえなくね?』
「夏は汗かくから、おまえに会う前に綺麗な身体にしときたかったんだろ」
『先約あるっつってたんだって。男とホテルいって風呂入ってから俺ンとこきたに違いねーよ』
「いったん家に帰ったんじゃなくて?」
『ンなタイトなスケジュールくむか』
「女の子って好きな相手のために隠れていろんな努力してるらしいけどな」
『すっぴんだって見てんだし、なんなら汗かいてる身体だってよく知ってるわ、いまさらだろーよ』
「知られてればだらしなくていいってわけでもなくねえか」
『……おまえやけに香澄の肩持つのな』
 尊の声が低く曇った。
「なあ尊、このこと石井たちにも話したか」
『話さねえよっ』
 さも意外、と言いたげな素っ頓狂な口調で驚かれた。
「どうしておまえは俺に相談してくるんだよ」

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書店員様の声

今回、前半200ページ弱を先行して書店員様に読んでいただきました。
そこで、感想の一部をご紹介致します!!

感想をお送りいただきました書店員の皆様、ありがとうございました。

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朝丘戻先生スペシャルインタビュー

新作「Heaven’s Rain 天国の雨」は朝丘先生の初の四六判小説であり、448Pという大ボリュームの1冊になりました!
そんな特別な1冊の発売を記念して、作品のこと、朝丘先生のことをたくさん伺いました!

●作品について

———本作のテーマ、内容を簡単にお教えください。

自分が小説をとおして訴え続けている、自身の幸福観がテーマの柱です。

それを再び新たに鮮やかに掘りさげるために、
今回は現代ファンタジーという世界で、羽根のないおじさん天使と、病弱な少年の出会いを描きました。

———この作品を描こうと思ったきっかけはなんですか?

降りてきた、としか言いようがないです。五年前のことです。
きっかけは作品によって違いますが、今作は最初におじさん天使である暁天と、彼と恋するリンの姿が見えてきたので、そこから物語をかためていきました。

———執筆期間はどのくらいでしたか?

約半年と一ヶ月です。

———凜、暁天の名前の由来などはありますか?

由来はありません。 名前はいつも、ぱっと浮かんだものを故意に与えています。
逆に、ぱっとでないときは「この人はいま生まれる運命じゃないんだな」と思っていったん放置したりするんです。

ただし名前にあてた漢字には、全員理由があります。
作品を読んでくださったかたに、彼らの人格などから感じとっていただけたらとても嬉しく思います。

———凜、暁天のイメージモデルがいましたら教えてください。

絵をお願いする際にyoco先生に伝えた髪型、髭、なんかのモデルはいます。
齟齬がないようにしたかったからで、それ以上でも以下でもありません。
が、内緒にさせてください……わたしは思い出すたんびに笑ってしまいます。
yoco先生はどう感じられたんだろう。
ファンというわけでは、なかったんです、格好いいとは思ってるけど……。

———最初に生まれた人物は?

上記でさきにご紹介させていただいてしまいましたが、暁天とリンのふたりです。

———先生が一番描きたかったシーンはどこですか?

すべてです。

———書いていて楽しかった、また辛かったシーンなどはありますか?

すべて楽しくて、すべて胸が苦しかったです。

———初めての四六判・小冊子付き限定版ということで、一番ここをこだわった! という点があったら教えてください。

すべてにおいて細部まで手を抜かないこと、をいつも以上に心がけました。

作品は、出版社、担当、挿絵担当の絵描きさん、読者様への贈りものだと思っています。
内部にはどんなに迷惑をかけてもかまわない、素晴らしい一冊にしてそれで責任をとるから、とにかく読者様に胸を張って贈れるものをつくる、と考えてつねにむきあっています。
今回も自分の作家力のなさと、そのうえでの四六判を出版するという責任の重さを自覚していたぶん、物語、絵、キャッチ、装丁、帯、販売方法、なにもかもすべて真剣にとりくみ、ご尽力くださる方々とともに丹精こめてつくってきました。
一番、なんてありません。
すべてにおいて全員の心と努力がつみ重なって生まれた、こだわりの一冊です。

●朝丘先生について

———朝丘先生が小説家になろうと思ったきっかけはありますか?

ある作家の作品に出会ったのがきっかけです。

昔「やおい」を激しく嫌悪していたころ、親友が「わたしハマったかも……」と告白してくれて、「これはいけない。親友の気持ちを理解しなければ」と手にとった本がその小説でした。
それまでわたしも絵を描いていましたが、その小説に出会ったとき「自分の書いている絵に意志があるのか?」と思い至って絶望しました。
空っぽだったんです。本当は限界も感じていました。絵には劣等感も向上心も芽生えなかったから。

それでその想いを若気の至りで作家さんへ手紙にしたためて送ったら、わたしの「意志を持って、他人に伝えるためのものを書きたいと思った」という言葉に、「あなたがデビューしてくるのを待っていますよ」というお返事を頂戴してしまいました。
「えっ、デビューなんてだいそれたことは考えてなかったのに……」と動揺しましたが、次の瞬間にはワープロを抱えて部屋へ駆けこんでいました。

その後デビューしたあとは作家さんに直接ご報告にもいきました。
いまでもわたしにとってその方以上の作家はいませんし、支えであり原点です。
一生超えられない、超えるつもりもない師。
自分の人生に対して運命なんて大仰なものをあげるとしたら、これが唯一の、その奇跡です。

———執筆中にしていること、たとえば聴いている音楽など、欠かさないことなどございますか?

ある物を身につけて、それをつけているあいだは作品の彼らに恥じる行為は絶対にしない、と誓っています。
飲酒とか、エッチな本を読むとか、そういう欲望の一切を禁止するんです。

音楽は作品イメージにあわせた一曲を延々とリピートし続けます。
だいたいしっとりした曲なので、たまに頭が破裂しそうになります。

だから執筆が落ちついたらエッチな本を読んでがちゃがちゃした曲を存分に聴きます。けど、またすぐ我慢できずに書き始める、というループです。
余談ですが、雑誌ダリアさんで連載が始まる西野先生原作の漫画がすげえ楽しみなので、エロ解放期間にまとめ読みしよう、と計画しています。

———執筆中に筆が止まってしまった時は何をしてリフレッシュしていますか?

とまるというか、次に彼らがどういう行動をするのか、なにを言うのか、見えなくなるときがあります。
そうすると散歩します。 公園を抜けてコンビニへいって、木々や鳥や子どもを眺めていると脳内の視野もひろがっていき、作品の人物たちが自然と動きだします。

———先生の一番の癒しとは何ですか?

小説を書くことです。

———先生の宝物を教えてください。

挿絵をお願いした絵描きさんの絵たち。
読者様から頂戴した手紙やプレゼントたち。
小説を書き始めてデビューもしていなかったころ、初めて手紙をくださったかたからもらった木彫りの天使。

担当や友だちや読者様がくれた言葉も、と言おうと思いましたが、宝物というよりは、わたしを学ばせて導いてくれる光でした。

———先生の作品には、魅力的な女性がよく登場されますが、女性を描くときのこだわりや先生ならではの決めごと等ありましたらお教えください。

「同性愛の辛さ」を描くことも信念としているのですが、それは男女それぞれがいてこそ成りたつものだと思っています。
なので、ボーイズラブの場合は女性も率先して真摯に描いていきたいと考えています。
個々の性格や外見にこだわりはあれど、むしろ純粋に好きな想いでしか描いていません。 女の子も大好きです。

そういった信念があることから、挿絵をお願いする絵描きさんに対しても「女性も楽しく描いている人」というのをひそかに条件にさせていただいています。
ツイッタなど拝見して「女の子のおっぱーい」とかおっしゃっていると、よしお願いしよう、と意気ごむんです。

———今までの作品の中で担当編集との打ち合わせで一番印象に残った出来事はありますか?

どんなことも日々の端々でよく思い返します。

大事にしているのは、一作目の『君に降る白』のあと「編集者になる前から朝丘さんのこと知ってたよ」と聞かせていただいたのを機に、おたがいいろいろ披瀝した日のことです。
どうやってわたしの担当になったのか教えてくれましたし、わたしもなにに悩み、なにを目指しているのか、すべて話しました。
それはいまもおなじで、パートナーとして自分の葛藤は包み隠さず話すようにしていますし、「朝丘さんなんなのもう…」とあしらってくれる人柄に救われてもいます。
ドライかと思いきや、『あめの帰るところ』の修正をしていたとき、わたしが『携帯電話で一番星の写真を撮ったよ』と書いた部分に対し、「月にしましょう。だってわたしも携帯電話で星を撮ったことありますけど、撮れなかったから!」と指摘してくれた、乙女な人だったりもします。
ツイッタでも裏話をしましたが、Skypeで話ながらわたしが真剣に文章修正しているってのに、チャットで「\(^o^)/」とか送って邪魔してきて「暇なんだもん」とか可愛いことも言います。
担当になって一番最初に「わたし褒めませんから」と宣言してくれたところも好きです。手放しで持ちあげる人やお世辞言う人が担当だと、読者様に喜んでいただける本がつくれないので。
おたがい真剣すぎるので、本をつくっていると毎回必ず一度は険悪なムードになるんですけど、和解する都度、それまで以上に絆が深まっているのも感じます。

出会ってから七年のつきあいになります。 信頼している担当にも恩返しになる作品を贈り続けていきたいです。

———今回、タイトルにも「雨」という言葉が入っており、また朝丘先生自身も「雨」がお好きとのことですが、先生が「雨」をお好きな理由はなんでしょうか?

小説を書き始めたころから不思議とつきまとわれるようになりました。
昔はそんなことなかったのですが、いまは執筆に熱中していたり、重要な場面を書いていたりすると外に雨が降っています。
それに、曇り空のときに外出すると必ず降ります。
連れがいて降ってくると「やっぱりね」「わかってたけどね」とため息をつかれます。
会社員だったころ先輩に「あんたと一緒に帰ると降るからひとりで帰って」と拒絶されたのがいまでも忘れられないです。結局降ってげんなりさせました。
でも晴れすぎていると蒸発して倒れてしまうので、雨のしずけさとすずしさがやっぱり心地いいです。

———先生が作品を書くなかで、一番嬉しい瞬間とはどんなときですか?

登場人物たちが幸せなのも苦しいのも、恋する相手に出会えた証拠なのでそれぞれ全部嬉しいです。

ふたりの心が通じあう瞬間は心も震えて、初めてのキスとか、手繋ぎとか、セックスとか、触れあうときは涙がでるぐらい一緒に嬉しくなります。
セックスシーンも、その後のピロートークもお風呂も、いつまでもいつまでも書いていたくなります。
好きで好きで片想いで報われないあいだも、傷つくことのできる幸せを強く感じて満たされます。
たとえ一緒にいられなくなっても、相手の存在が刻まれたその後の人生は孤独じゃなく幸福に違いない、だからやっぱり嬉しいです。

———最後に読者の方にメッセージをお願いします。

これまで自身のことを「作家」「小説家」と言うときは、そこに到達していない自分への戒めのような気持ちがつねにありました。

書いてきた作品に後悔はありませんし、しません。そのときの精一杯だったと言い切れます。
ですが反省点は必ずあり、自分は未熟な成長途中のままで、作家、小説家と堂々と言うには力不足であると歯噛みしていたのです。
だから文章や物語づくりについて勉強しながら、どうしたら自分の伝えたいことが多くの読者様に伝えられるか、出版社にも絵描きさんにも読者様にも喜んでいただけるかと、作品を書くごとに懊悩し続けてきました。

考えすぎてがちがちになっていたその自分の心が晴れたのが『坂道のソラ』以降です。
あのころ、あ、この歩き方で間違ってなかったんだ、と思えました。
成長したくてどんなに悩んでも、その悩みの方向が間違っていたら意味がありません。でも「正解」の尻尾を掴むことができたのです。
しかしそれはわたしの力ではなく、yoco先生の魅力的な絵が読者様の心をこちらにむけてくださったのが大きなきっかけだったのだと自覚しています。
yoco先生がくれたものは、たしかな一筋の光明でした。

今回、四六判というお仕事を頂戴して『Heaven's Rain 天国の雨』のふたりが降りてきたとき、わたしのなかに再びyoco先生の絵で彼らが生き始めました。
ただでさえ責任重大なのに、『ソラ』を好いてくださった読者様にも『ソラ』と同等かそれ以上の感動をお贈りしなければならない、yoco先生の名前も汚すわけにはいかない、というプレッシャーも背負ったわけなのですが、それでいい、挑みたい、挑める、と思いました。

そうして完成した今作は確実にいままでのわたしではない、でもわたしらしさが満ちあふれた一歩です。
ようやく自分のことを作家で小説家だと、気後れなく言えるようになりました。

とはいえ一歩にすぎません。遅すぎる一歩です。
反省しつつ、今後も成長していくために努力し続けていきます。
なので、よろしければまず『Heaven's Rain 天国の雨』の彼らに会ってやってください。

死別の場面もありません、別れもありません、切なくて泣ける物語でもありません。
唯一の相手と永遠に結ばれる喜びに満たされて、熱い至福感で胸が千切れる、ごくごく単純な物語です。 これがわたしの幸福観です。

お贈りするために、魂を削って制作陣全員で細部までこだわり抜いて、大事につくりこんできました。
読者様の心にも触れることができましたら、こんなに幸せなことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします。

yoco先生の人物ラフ公開

yoco先生による、人物ラフイラストです。

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 ご参加くださった読者の皆様、ありがとうございました

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