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「……うん、知ってる」
真人が上半身を倒して、俺の喉や鎖骨を舐めて吸ってくれる。
「ぁっ……や、……くすぐったい、」
「強くしてみようか」
軽く噛まれて吸われると、今度はくすぐったさの奥に快感が生まれて震えてしまった。
「それ、は……気持ち、いいっ……やだ、まこに……変な顔、見せる、」
両腕をあげて顔を隠したら、くすくす喉で笑う声が聞こえてくる。
「世ちゃんに変な顔なんてないよ」
「あるよっ」
「ない」
「白目剥いててもいいの?」
「それは具合悪そうだから心配になる。寝顔だったら笑ってキスする」
「真面目回答……」
微笑む真人が俺の左手に右手を絡めて繋ぎあわせ、鎖骨を舐めていく。端までいくと肩先もちゅと吸われた。腕を撫でながらシャツをおろして、腋のあたりのやわい皮膚も甘噛みされる。
真人の愛撫はゆっくりと丁寧で、映画やテレビで観るような忙しないものじゃなかった。
でもそれは初めてだからぎこちないっていうふうでもなくて、単に真人の優しさと、想いの大きさだと思った。十数年かけて積み重ねてきた想いを、すこしずつ触れることで刻みつけてくれているみたいな。
「……胸にも触るね」
目を見て、穏やかに言われた。
「……うん」
うなずいて受け容れると、腰を支えてくれていた真人の掌がそっと移動して、右側の乳首を掠める。
「わ、……ぅ」
「いや?」
「ちが、う……すごく、感じる」
「ここは反応しちゃうところだよね」
「……まこも、感じる?」
「うん、敏感だと思うよ。世ちゃんみたいに可愛く反応できないだろうけど」
人さし指と親指でやんわりつままれて、甘やかに捏ねてこすられた。真人にこんなところを触られている、と自覚するだけで脳が痺れて目眩がするのに、言葉も触りかたも優しいうえに気持ちよすぎて、力んでいても肩が跳ねてしまう。
「まこ、やだ、気持ちいいっ……」
「……俺も世ちゃんが可愛すぎて嫌になるよ」
吐息を洩らした真人が、俺の左胸を唇で覆って吸ってきた。
「あっ、……は、」
「ありがとう世ちゃん……俺の手に感じてくれて」
胸を真人の口に含まれて熱い舌先に乳首を舐められる。下から先まで舐めあげられてぞくりと背筋に快感が走ってすぐ乳首を甘く舐め転がされて、さらに烈しい快感に襲われる。
「や、ゃっ……」
右側の胸は指で撫でられて、左側は唇と舌であめ玉のようにしゃぶり尽くされていく。
快感は電流に変わり、真人がくれる刺激にあわせて手足の先までじんじん痺れて身悶えた。じっとしていられなくて腿をこすりあわせ、手をかたく握りしめて、敏感に快感を受けとめて腫れていく左右の乳首に掻き乱される。
体内に快感が蓄積されていくばかりで発散できず、もどかしくて息苦しい、解放されたい、逃げたい、でも真人と離れたくない。
「まこ、まこっ……くる、し、……や、は、」
「……わかった」
右胸にあった真人の指が乳首からずれて胸全体を揉み始め、左胸を吸っていた舌も乳暈をなぞって甘噛みする。刺激する位置をすこし変えて、和らげてくれたらしい。
「……まこ、口もキスして」
頼んだら嬉しげに、苦しげに微笑んで、戻ってきてキスをしてくれた。
十代の初めてのセックスなのだから、めちゃくちゃに自己中に欲望をぶつけたいだろうに、愛撫ひとつとっても真人は俺の気持ちと快楽を考えつつ想いやって触れてくれる。
普段から優しい真人の温かい心が、セックスをしているとより鮮明に、明確に感じられるから堪らなかった。
真人のこういうところ好きだ、真人だから好きだ、真人じゃなきゃ無理だ、真人しか好きになれない、愛せない――と、他愛なく理解していた想いが強い確信に変わる。
セックスってこのためにするんだね。ずっと一生一緒にいられる、真人となら、って心の底で得心して信頼を深めるためにするんだ。
舌を吸いあってキスも存分に堪能したあと、また真人が俺の首筋と鎖骨を丁寧に唇と指先で愛撫しながら顔をさげていった。胴体を滑らかに撫でつつ、胸も、腹も、時間をかけて大事そうに舐めて味わってくれる。
「……そろそろ、下着も、……汚れそうかも」
息も絶え絶えに真人の右頬に手を添えて伝えたら、顔をあげた真人も「俺も」と照れて微笑んでくれて、俺のズボンと下着をおろしてくれた。俺も身体を起こして、真人のネクタイとワイシャツ、それにズボンを脱ぐのを手伝う。
ふたりで裸になって向かいあうと、ふいに子どものころ一緒にプールに入ったときのことを想い出して笑ってしまった。流れるプールで、浮き輪を使ってぷかぷか浮いたままいつまでもぐるぐるまわるのが、なぜかとても楽しかった。
「……プールのときみたい」
俺が言ったら、真人も笑ってうなずいた。
「俺もおなじこと想い出してた」
裸で温泉に入ったこともあった。でもあのころは裸の身体を抱きしめあったりしなかった。
真人が右手をあげて俺の腰を引き寄せてくれたとき、俺も真人の首に両腕をまわしていた。どちらからともなく身体を寄せて、かすかに燻る恥ずかしさを隠すみたいに肌と肌をぴったりあわせる。そしていま一度、真人の腕に横たえてもらってベッドの上で重なりあった。
裸の足と足も絡まりあう。かたく変化したところが真人に当たってしまうのは照れくさいけど、でも自分にも真人のが触れて、ふたりして一緒だと思ったら我慢できた。
セックスってもっとエロい官能的な行為だと思っていたのに、なんだか違う。全然違う。
ありのままの姿でおたがいを抱きしめあうのは、ひどく尊くて幸福な、神聖な行為に思えた。
「……俺たちの、セックスって……命が、生めるわけじゃ、ないけど……かわりに、自分が、生まれ変わってる気がするよ」
真人の頬に頬をこすりあわせて抱きしめながら告白した。
「まこに、触ってもらった自分の身体……昨日より、大事に思える」
真人も俺の背中をベッドから浮くぐらい強く引き寄せて両腕で抱き竦めてくれる。
「……じゃあ、世ちゃんも俺のこと触って」
「うん」
真人が俺の左脚を優しくなだめるように撫でながら持ちあげて、ひらいていく。
俺も真人の背中を抱いて、頭を撫でて、頬や耳にキスをしながら真人の手に自分の身体全部を委ねてあずけた。
物心ついたころからずっと一緒にいてくれた真人と俺は、おたがいがまるで自分の半身かのように想いながら生きてきた。だけど実際別々の心と身体はごくたまに残酷なほど遠く離れてよく見えなくなることもあった。もちろんそんなときも、すぐ至近距離まで戻っていくことはできたけれど。
そんな微妙で曖昧な半身同士だった俺たちが、いまやっと、本当にひとつになれる。
「……世ちゃん、辛かったら言ってね。我慢したら駄目だよ。セックスって挿入することじゃないから。ふたりで幸せになることだから。……わかる?」
欲望を理性でしっかりと抑えて、真人は俺の頭を撫でながらキスをしてくれる。
真人の言葉の意味がわかればわかるほど、愛しさが胸に迫りあがってきて感情が喉を圧迫して痛くて苦しくて、真人が好きで涙がでた。
「わがる……まごに、挿入れて、ほじい、っ……」
真人が、ふ、と吹いて俺の頭を抱き竦め、頬と耳と口にもキスをくり返してくれる。
「……わかった」
身体を浮かせて、真人はおたがいの下半身の位置を確認しながら腰を寄せてきた。指先で窄まりを撫でられて、そこの感触をどう思われているのか、気持ち悪くないか、と不安が過ったけれど、真人の表情は変わらず冷静で、でもすこし昂奮して息苦しげで、俺はほっとする。
「まこ、も……気持ちよく、幸せに、なれ、る、ように……俺も、頑張るからね」
自分からも膝をまげて両脚をひろげ、真人を招いた。恥ずかしがらなくても真人は自分のどんなところも嫌わないし、不快にならないでくれる、と信じたらまた涙が溢れた。
「……うん、ありがとう世ちゃん。好きだよ」
軽い圧迫感が次第に重くかたい違和感になって、自分の奥へ進んでくる。
「ぁ、わ、」
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