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俺がとり乱す前に真人が俺を抱きしめてくれて腰を止め、「大丈夫?」と頬を舐めてくれた。
「ン、ん……すこし、驚いた、だけ」
俺よりも真人のほうが慌てている。
「驚かせてごめん、もうちょっと……ゆっくり、するね」
「まこ、」
真人の頬が赤く紅潮して、昂奮が抑えきれなくなっているのも見てとれた。
「いいよ、そんなに気づかわなくていいから、して。……挿入れて、まこ」
はあ、と大きく息を吐いた真人が俺の右頬に噛みつき、覆い潰すように抱き竦めてくれながらまた腰を進めた。こんな状態で止めるほうが苦しいに決まっている。両脚で真人の腰を挟んで、背中を抱きしめて引き寄せて、まこ、と呼んだ。
「ひとつ、なろっ……」
「世ちゃっ……」
真人にしっかりと頭まで覆って抱きしめられながら、真人と自分の身体が繋がりあっていくのを感じていた。自分のなかに真人がいる。嫌いあいたくなくて離れたくなくて、絶対に失いたくない半身がいま、ここに……自分の身体のなかに、ぴったりとひとつに存在している。
「まこ……まご、っ……」
息を詰めながら、真人がさらに腰を進めて、引いて、ゆるやかに抽挿を始めた。
喜びや至福感と共に、快感もじわじわと大きくひろがりだして意識が朦朧としてくる。
「まこ、まこっ……」
「……世ちゃ、だいじょ、ぶ……? 気持ちよく、なれて、る?」
言葉がでてこなくて、うんうんと何度もうなずいて真人の耳に囓りついてこたえた。
好き、大好き、と腹の底から溢れる快感に押されるようにして想いをこぼし、自分も無意識に腰をふって真人を受けとめる。
「うれ、し……まこ、すき、」
真人の動きがはやくなっても痛みはなかった。むしろ俺のことばかりじゃなくて真人も自分の快感もむさぼってくれてよかった、嬉しい、俺で気持ちよくなってくれている、幸せだ、と余計に幸福感が湧きだして身震いした。
押しあげられるたびに真人を好きだと想う気持ちもふくらんで、愛してるという言葉でしかもう間にあわない。
愛してる。
真人とずっと一緒にいたい。ずっと一緒にいてくれてありがとう。
真人と生きて、最期までふたりで幸せでいるために積み重ねていく日々なら愛せる気がする。努力していける気がする。
「まこ、……まこ、と……俺、――」
***
「生きて、く……」
……え、と疑問に思いながら意識が現実に戻ってくるのをゆるく自覚していった。
あれ……なんだいまの。自分の声か。
ぼんやり曖昧な頭で思考しつつ、瞼を覆う重みにも気づく。やわらかい感触の……タオル?
「――世さん、起きました?」
左手を持ちあげて目もとを探ったら、生温かい肌とタオルにぶつかった。手だ。
「まこ……?」
呼んだのと同時に視界がひらけて、暗闇のなかにぼやける真人を見つけた。
「まこですよ」
左側に寄り添っている真人が、無表情で俺の顔を覗きこみながらこたえてくれる。
「……まこか」
「はい」
その返答を聞いて、意識が現実に戻っていろいろ理解してくると、ぷふっ、とつい笑ってしまった。
「やべー……すっごく都合よくて恥ずかしすぎる夢見た~……」
腹を押さえて喉でくすくす苦笑いする。想い出すほどに羞恥も増幅して笑うしかなくなる。
「恥ずかしかったんですか。そのわりには結構泣いてましたよ」
「えー、結構? そんなに泣いてた?」
「はい。泣き声で目が覚めたから、目もとにタオル置いて見守ってました」
「……そっか」
俺も起きあがってベッドの上に座ると、真人は右脚を立てて俺の背中にまわし、背もたれをつくって抱き寄せてくれた。大きな右掌で後頭部を撫でながら、髪を梳いてくれる。
俺も真人の肩に頭を寄せてくっついた。真人のパジャマの胸もとから、真人の匂いがする。あったかくて落ちつく。
「……寝る前にさ、俺たちが幼なじみで、おなじ学校に通っててーみたいな妄想したじゃん。あの夢見たんだよ」
「ああ……なるほど」
「真人とマンションのふたつ隣の幼なじみで、子どものころから一緒にいたんだよ。で、真人と戸川は同い年で、柳瀬さんが教師だった」
「オールキャストですね」
「女性陣はだいぶ酷くて自分が怖いよ……」
「女性もいたんですか」
「いてしまった。なんか……うん、自分が嫌になる……」
慰めるように、真人が黙って俺の頭をするすると撫でてくれる。
「あと、俺がすっごいおぼこかった。おぼこくて苛つくガキだったな」
「どういうことですか」
夢のなかの自分に怒り心頭で真人を見あげたら、真人はちょっと目をまるめて不思議そうな顔をした。
「なんかな、真人が小学生のころ『結婚しよう』ってプロポーズしてくれたのに、離婚するのが嫌だからって理由で十数年間のらくら逃げてるんだよ。そのくせ真人のことが好きで、高校まで追いかけてきてくれた真人にプライベートでも甘えてるの。ウザすぎねえ?」
自分の正義を訴えたのに、真人は瞼を細めて冷然とした面持ちになる。
「……現実の世さんとたいした違いはないと思、」
「言うなよ」
口を押さえてやったら、なかでぺろと舐められて「ひゃ」と放してしまった。
「現実では俺がプロポーズをしていたわけじゃないので、世さんに卑怯なところはありませんでしたよ。でも離婚を恐れるのはすごく世さんらしい」
「くっ……夢のなかでもうちの両親は現実どおりに喧嘩して離婚してたんだよ。そのせいなんだけどさ、なんで妙なところがリアルだったんだろうなー……真人ときゅんきゅんどきどきの高校生活を送るハッピーハッピーな夢でよかったってのにさ」
学校から帰ると喧嘩していた両親。家に入るのを躊躇って神社や公園へ逃げて膝を抱えていた日々。全部が現実で真実で、ただ〝まこ〟が居てくれたことだけが嘘だった。
本当にマンションのふたつ隣に真人が住んでいて、奇跡的におたがいが恋愛感情まで抱いて成長していたら、俺は夢のとおり甘ちゃんで卑怯な人間になっていたのかもしれない。だけど一瞬たりとも寂しさなど感じる余地のない、絶対的に幸福な人生だった。それはわかった。
「あー……まだ半分夢のなかにいるのかも」
夢って本当に理想だらけの世界だわ。
「俺、高校まで世さんを追いかけたんですね」
真人が俺の目を見つめながら訊いてくる。
「うん。頭よくてもっとレベル高いとこいけたのにきてくれたって、俺が言ってた」
「小学生のころからプロポーズするほどあなたが好きで?」
「そうだよ。夜は俺のうちに来て夕飯作ってくれて一緒に食べて、しかも同棲するためにバイトまでしてくれてた。すごいだろ」
ふふ、と真人が口角をあげて笑い、顔を伏せて肩を揺らす。
「……世さんの潜在意識ってほんと小悪魔ですね」
は。
「そうか……世さんはそんなふうに俺に執着されたいんだ。堪らないな」
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